(注)このSSは「痕」の千鶴END後を想定して書かれてますので、できればゲームをクリアしてからお読みいただけるとよりお楽しみ頂けます。
尚、このHPに寄稿した「悲しいすれ違い」の続編にあたりますのでぜひそちらを先にお読みください。
苦情、抗議、剃刀等危険物は管理人さんでなく作者まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『悲しいすれ違い-step-』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 例えばの話だが……。

 自分の大事な友人、兄弟、姉妹、といった人達が、あなたと同じ人を好きになったとしたら……。 

 あなたはどうしますか?

 お医者様でも草津の湯でも、止めることなどできませぬ。

 その人を好きになる事、止める事など出きるはず無し。

 どちらの道を選んでも、悲しくつらい、恋の路。

 今宵は、その悩みに一つの答えを出した少女の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 始まりは些細な一言がきっかけだった。

 

「楓ってお化粧しないの?」

 

 高校の帰り道。

 友達が漏らした些細な一言。

 それが、少女をちょっとぐらい変えたからと言って、何も起こりはしないだろう。

 ……普通ならば。

 

 

 

 楓が、耕一と出かける前の日に、鏡とにらめっこしつつ口紅を塗り始めたのはそんな理由だった。

 

 

 

 

楓「……口裂け女……」

 

 教訓:初めから上手く行く事はそうそう無い。

 

楓「千鶴姉さんに教えてもらおう」

 

 ここで楓が化粧を教わりにいったのは千鶴。

 もちろん、他の姉妹がそんな技術を持っていないからだが……。

 

楓「千鶴姉さん、ちょっと良い?」

千鶴「あら、楓じゃない、どうかした?」

楓「お化粧の仕方を教えて欲しいの」

 

 ぴしっいいいいっ!!

 

 もし、空気が割れるとしたら、こんな音がするのでは無かろうか。

 そんな音が響く。

 

千鶴「……明日、化粧をしていくのね」

楓「うん……」

千鶴「……」

 

 千鶴は悩んだ。

 楓は妹とは言え、耕一を取り合うライバル。

 楓に化粧の技術を教える事は、とりもなおさず自分を不利に追い込むような物。

 しかし……。

 彼女は大事な妹だ。

 鬼の騒動も終わり、ようやく平和な生活ができるようになって、明日好きな人とデートに行くのだ。

 そんな彼女が化粧をしてみたいと言う気持ちはよく分かる。

 それを無下に断って良いものかどうか。

 しかも、普段おとなしく、あまり自分に頼ったりしない妹が頼りにしているのだ。

 その願いを踏みにじっていいものかどうか。

 悩んだ。

 

 

千鶴「そうね、時間も無いから簡単な物でいいかしら」

楓「うん」 

 

 結局、柏木千鶴は自分の良心に敗北した。

 心の中では血の涙が流れていたかもしれないが……。 

 

 

 

 

 

 

楓「……これが……私?」

千鶴「そうよ……どう?」

楓「なんだか……私じゃないみたい……」

 

 

 そこには……一人の美しい少女ができあがっていた。

 もともとが美少女なのに加えて、薄く紅を引いた口元が大きな存在感を示していた。

 さらに、香水もつけて、服もデザインの良いものに着替える。

 それだけと言えばそれだけ。

 だが、それだけの事がいつもと違った魅力を引き出す所に、化粧の魔力があるのだろう。

 

 

千鶴「うん、そうね、あなたも女の子なんだから、もう少しこういう事に気を配っても良いはずよ」

 

 千鶴は、自分が手がけた妹の姿に満足していた。

 

千鶴「これなら、どんな男の子だって……」

楓「?」

千鶴「はあ……まあ、あなたと梓は、少しはこういう事にも興味を持ってもらわないとね」

 

 梓は活発に行動する事を望み、楓は今までは非常に淡白な反応しか示さなかった。

 それが、段々と普通の女の子らしくなっていくというのは、姉妹の母親代わりもしていた千鶴にとっては嬉しい事だったが……。

 

千鶴「どうして、姉妹で同じ人を好きになっちゃったのかしらねえ……」

 

 悩みは尽きない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで次の日。

 今日は第2土曜日で、高校は休み。

 耕一は午前中には大学が終わり、列車でもってこちらに帰ってくる。

 駅で待ち合わせをして、そこからどこかに行くという予定を立てていた。

 ただ、それとは別に、楓には一つの決意があった。

 心の中で悩んで、悩みぬいて出した結論。

 それを、今日、話すつもりだった。

 

楓「耕一さん……」

 

 

 朝から急に冷え込んで、コートやセーターを急いで用意した。

 吐く息が白い。 

 

 薄く化粧をした楓は、誰の目にもとまる絶世の美少女という感じだった。

 憂いの表情をたたえ、少しうつむきがちになりながら、駅の前で待っていた。

 

 

 ところで……考えていただきたい。

 少し淋しげな感じの美少女が、一人でぽつんと立っている。

 どうなると思いますか?

 

通行人A「そこの、お嬢さん、暇なら……」

 

 どか、ばき、ぐしゃ、めきょ……。

 

長女「良いわね、誰であろうと、楓に近づけたらダメよ」

次女「……千鶴姉、なにがあったんだ?」

四女「……何か、悪い物でも食べたのかな……」

 

 

通行人B「あなたは神を……」

 

 どか、ばき、ぐしゃ……。

 

通行人C「お茶でも一緒に……」

 

 べき、ぼき、ぐしゃ……。

 

通行人D「高校生かな? こんな所に一人で……」

 

 どががががががが……ずーん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楓「もうすぐ……耕一さんが来る……」

 

 待ち始めてから、すでに何時間か経過していた。

 冷たく冷え切ってしまった手を後ろで組んで、空を見上げる。

 

楓「えっ……雪……?」

 

 白い、ひとひらの雪が、天から降り注ぐ。

 まるで鳥の羽のように、軽やかに舞う。

 息を吹きかけただけで、跡形も無く溶けて消えゆく……。 

 

 手を差し出して、雪を乗せてみた。

 白くて、小さな雪……。

 すぐに溶けて、透明な水へと変わる……。

 

 

 冬将軍が、一年ぶりに訪れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、耕一の乗っていた列車は……。

 

車掌「雪のため、列車の運行に……」

耕一「へっ?」

 

 雪で足止めを食っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は夕刻。

 すでに、予定の時間を2時間過ぎていたが、まだ、耕一は来なかった。

 

楓「耕一さん……何かあったのかな……」

 

 不安げな表情で呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃……。

 

耕一「なかなか動かないねえ」

車掌「雪が、ここまでひどくなるとは思ってもみなくてねえ……」

老人A「兄ちゃん、ほうじ茶でも飲まんかね?」

耕一「あっ、どうもすいませんねえ」

老人B「冷凍みかんがあるよ」

耕一「どうも、なんだか貰ってばかりで悪い気がしますが……」

老人C「良い若いもんが遠慮してんじゃないよ」

 

 なぜか、動かない列車の中で宴会になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺りはすっかり暗くなっていた。

 待ちつづける楓。

 雪は止んでいたが、大分積もっていた。

 

楓「耕一さん……本当になにかあったんじゃ……」

 

 鬼の血を引く耕一に、命の危険は無いだろう。

 だから、どんな事情で遅れているにせよ、それほど心配する必要は無いはずなのだが……。

 

楓「この間のように……私達の知らない鬼がいたりしないかな……」

 

 悪い想像をするときは、どんどん悪い想像が生まれる物である。

 楓の中では、すでに耕一がこの世にいないとか、そんなことまで想像が膨れ上がって行くのだった。

 

楓「そうだ、携帯に……」

 

 耕一の携帯にかければ、今どんな状況なのか分かるはずである。

 だが、冷静に考えてみれば、これだけ遅れたら、耕一からなんらかの連絡が入るのでは無いだろうか?

 もしかしたら、電話をかけることすらできない状況なのではないだろうか?

 そんな不安を振り払うように、慌てて電話をかける。

 

「「ただいま、お客様のおかけになった電話番号は、電波の届かない地域にあるか、電源が……」」

 

楓「耕一さん……」

 

 不安に押しつぶされそうになった楓は……携帯電話をぎゅっと握り締めて……。

 

 ぽたっ……。

 

 涙の雫を一粒、握り締めた手の上にこぼした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃……。

 

耕一「いくらなんでも、そろそろ連絡を入れないとな……」

 

 圏外。

 

耕一「あっ……やべえ」

車掌「ああ、この辺は携帯は無理だな」

 

 わりと平和だったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕闇から、夜のとばりへと変わる町並み。

 結局、耕一が楓の待つ駅にたどり着いたのは……約束の時間を何時間も過ぎていた。

 

耕一「……楓ちゃん……ごめんね遅くなって」

楓「こ……う……いちさん……」

 

 照れくさそうに笑う耕一と、目の前が見えなくなるほど泣きじゃくる楓。

 何時間も待たせた罪悪感は、耕一に抱き付いて泣きじゃくる楓のせいで余計に大きくなったが……。

 

耕一「ごめんよ、こんな冷たくなるまで待たせて」

楓「いいんです……」

 

 冷たくなった楓の手と頬……。

 それでも、耕一に触れているだけで……。

 

楓「耕一さん……暖かい」 

耕一「そう?」

楓「はい……」

 

 

 

 

 

 えっ? 例によってあの人達はどうしたかって?

 

長女(修羅)「うう……いくらなんでもあの二人遅すぎる……」

次女(羅刹)「いったい……何してやがる……」

四女(夜叉)「耕一お兄ちゃん……まさか……」

 

 すでに、帰宅してらしたようで……勿論の事、耕一がやたら遅れていた事も知らず……。

 

 

 

 

 

 

 

 

耕一「とりあえず、どこか喫茶店にでも行こう……遅くなっちゃったから出かけるのは明日ということにして」

楓「耕一さん……少し、歩きませんか?」

耕一「えっ?」

楓「こんなに星も綺麗ですし……」

 

 

 星。

 降ってきそうな星。

 冬の澄みきった夜空を彩る星。

 

 

楓「星から星へと渡り、故郷の星の形すら忘れ……それでも渡りつづける……」

耕一「……」

楓「その星の生きるもの、全て滅ぼし、母なるレザムへと戻る道を辿りつづける……」

耕一「……」

楓「でも、そんな生活につかれきった私は……安らげる場所を求めていた」

耕一「……楓ちゃん」

楓「そんなとき、銀河の辺境に不時着した私達は……いえ、私はあなたに会えた」

 

 その時、耕一には、目の前の楓がエディフェルにダブって見えた。

 

耕一「……俺は、柏木耕一だよ……」

 

 俺は次郎衛門じゃないんだ……。

 そんな思いと共に、言葉を紡ぎ出した。 

 

楓「分かってます、耕一さんは次郎衛門じゃないし、私はエディフェルじゃありません」

耕一「……」

楓「でも、私の中には確かにエディフェルがいるんです……耕一さんが次郎衛門と共に生きているように」

耕一「……」

楓「今日……どうしても、一つだけ聞きたいことがあったんです」

耕一「聞きたいこと?」

楓「耕一さん……千鶴姉さんの事……どう思ってますか?」

耕一「えっ?」

楓「答えてください」

 

 楓の目はまっすぐで、真剣だった。

 その目に迷いは無い。

 ただ、握り締められた手がふるえ、答えを聞くことを拒んでいた。

 

耕一「俺はね……千鶴さんを……愛してる」

 

 耕一には、彼女の真剣な眼差しをごまかすことはできなかった。

 そして、自分の本心をさらけださなければ失礼だと思った。

 だから、彼女が傷つくかもしれなくても、答えた。

 

耕一「俺は千鶴さんを愛してる」

楓「……」

耕一「今は、自分の事で精一杯だけど……いつか、千鶴さんと結婚したいと思ってる」

楓「……それを聞いたら、きっと千鶴姉さん喜びます」

耕一「……」

楓「私、一生懸命考えました。 自分の中のもう一人の自分とも相談して、ずっと悩んでたんです」

耕一「……」

楓「私、耕一さんが一番好きです」

耕一「楓ちゃん……」

楓「でも、千鶴姉さんも同じ位好きなんです」

耕一「……」

楓「そして、耕一さんが一番好きなのは千鶴姉さんだって……分かってたんです」

耕一「……」

楓「だから……私……」

 

 雫が一粒……二粒……。

 気づけば、流れ落ちる涙は勢いを増していた。

 

楓「一つだけ、お願いしてもいいですか?」

耕一「……なんだい?」

楓「今日だけ……いいえ、今、この瞬間だけ、私の事を一番好きになってください」

耕一「……」

楓「そして、耕一さんの腕の中で泣かせてください……」

耕一「それで……いいの?」

楓「はい……」

耕一「分かったよ、じゃあ、楓ちゃんが泣き止むまで、君のことを一番に思うから……」

楓「はい……」

 

 そして、そのまま、耕一は泣き崩れる楓の事を抱きしめた。

 泣いてる彼女を見ながら……次は幸せな恋をして欲しいと……心から願った。

 

 

 

 

 

 

耕一「そろそろ、帰ろうか……」

楓「はい……あの、手を繋いでもいいですか?」

 

 恥ずかしげに見上げてくる眼差しは、いつもの楓ちゃんだった。

 泣きはらした眼が痛々しかったが……。

 

耕一「どうぞ、お姫様、この私めのお手に、おつかまりください」

 

 彼女の願いは、かなえられる限りすべてかなえてあげたいと思った。

 そして、彼女の願いがかなうようにと……星に願った。

 

 

 

 

 

 

 

 帰宅した二人を待っていたのは、すっかりお冠の3人だった。

 まあ、連絡もいれずこんなに遅くなったんだし……仕方ないかな。

 耕一はそんなふうに思っていた。その時は……。

 軽く怒られた後、夕食。

 その後、疲れたから……と楓はすぐに寝床についてしまった。

 もしかしたら、布団の中で泣いてるのかもしれない。

 でも、俺がそれを慰めてはいけないような気がするから……。

 そう思って、耕一は自分の不甲斐なさを思いながら、酒を飲みつづけた。

 もちろん、それによって運動能力が落ちること等計算外だったが……。

 

 

 

千鶴(嫉妬)「ところで耕一さん……覚悟はよろしいでしょうか?」

 

 そして、なぜか楓がいなくなったとたんに、部屋の空気が変わった。

 冷気が漂い、気温が下がる。

 だが、耕一に向けられた視線はさらに冷たく、まるで凍てつくようだった。

 

耕一「か、覚悟って何の?」

梓(激怒)「ほほう……この後に及んでとぼける気か……」

耕一「へっ?」

初音(不信)「お兄ちゃん……服の口紅はどこでつけたのかな……」

耕一「へっ?」

 

 そう、楓が泣き付いたとき、口紅の紅い色が服に写されていたのである。

 だが、それに気づいたときには遅かったようだ。

 

千鶴(嫉妬)「楓も泣いて帰ったようだし……よっぽど痛かったんでしょうね……初めてでしょうし……」

 

 ……なるほど……そういう捉えかたもあるんだ……。

 ははは。

 笑うしかないという状況はあるもんなんだなあ……。

 最早、耕一に言い逃れや逃亡の余力は残されていなかった……。

 

耕一「ちょっと待ったっ!! 何か誤解があるって」

梓(激怒)「聞く耳持つつもりは無い……いいかげんにあきらめな」

初音(不信)「お兄ちゃん……もう、覚悟はいいよね」

 

 

 

耕一「誤解だ〜っ!!」

鬼娘のみなさま「問答無用っ!!」

 

 

 

 

 気づいたら、病院だった。

 

楓「耕一さん、大丈夫ですか?」

耕一「ここは……病院?」

楓「はい」

耕一「みんなは?」

楓「さすがに反省して大人しくしてます」

耕一「そうか……」

楓「大丈夫です……みんなが耕一さんを傷つけようとしたら、私が止めて見せます」

耕一「楓ちゃん……」

 

 でも……それで君はつらくないのかな?

 そんな事を思った。

 しかし、いらない心配だったようだ。

 

楓「とりあえず、私、耕一さんの3号さんですから」

耕一「はい? ちょっと待って、どう言う事?」

楓「えっ、勿論、千鶴姉さんが正妻で、梓姉さんが2号さん、そしたら私は3号さんですよね」

耕一「あの〜、もしもし?」

楓「エディフェルはどうしても正妻の座を勝ち取るんだって、愛人じゃ嫌だって納得してくれなかったんです」

耕一「いや、だからさ……」

楓「納得させるの大変だったんですよ? でも、私は側に耕一さんがいればそれでいいって……」

耕一「あのさ、だからね……」

楓「私、千鶴姉さんも、梓姉さんも、初音も大好きですから……だから、みんな一緒でもいいかなって」

 

 にっこりと笑いながら、そんな事を言う楓ちゃん。

 俺は……もしかして、鬼畜の道へ突っ走ってしまうのだろうか?

 

楓「じゃあ、おかゆを貰ってきますから……」

 

 あ、もとから鬼か。

 そんな事を思いながら、耕一は楓に看護されるのだった。

 

千鶴「耕一さん……鼻の下が伸びてますよ……」

耕一「ち、千鶴さん、い、いつからいたの?」

千鶴「いつからでしょうね……うふふふふ……」

(続く)