(注)このSSは「痕」の千鶴END後を想定して書かれてますので、できればゲームをクリアしてからお読みいただけるとよりお楽しみ頂けます。
尚、このHPに寄稿した「悲しいすれ違い」の続編にあたりますのでぜひそちらを先にお読みください。
苦情、抗議、剃刀等危険物は管理人さんでなく作者まで。

 

 

 

 

 

 

 

『悲しいすれ違い-step-』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楓「……梓姉さん何してるの?」

 

 その日、梓の部屋は部屋中下着が散乱していた。

 

梓「いや、明日のためにね」

楓「……何故下着まで……」

梓「必要になるかもしれないじゃない」

 

 そう、明日は梓と耕一の1日デートである。

 前回の初音があっさり終わったので油断していた楓だったが、

 すぐ上の姉もかなり計画を練っていたようだ。

 

楓「……千鶴姉さんに相談しよう」

 

 相談と書いてチクると読む。

 かくして、千鶴と楓の一時的同盟が組まれる事と相成った。

 

千鶴「なんとしても、最悪の事態を防ぐ必要があるわね」

楓「ええ……」

千鶴「……この手は使いたくなかったけど……耕一さんの貞操のため」

楓「……」

千鶴「私は鬼にでも蛇にでもなってやる」

楓「……元から、鬼でしょうに……」

千鶴「……楓……今、何か言った?」

楓「いえ、別に」

千鶴「さて、電話をしておかないとね」

楓「電話? どこに?」

 

ピポパポピポパ……。

テゥルルルルルルルル……ツゥルルルルルルルルル……。

ガチャ。

 

千鶴「もしもし、柏木と申しますが、ええ、姉です、いつも妹がお世話になってまして……」

楓「……」

千鶴「ええ、それで、明日妹がどこかに出かけるらしいのでそれを邪魔……もとい、一緒に行ってあげたら

あの娘も喜ぶかと思いまして……」

楓「……」

千鶴「私、あの娘の幸せを願ってますから、早くあなたが本当の妹になる日が待ちどうしいですわ」

楓「……(汗)」

千鶴「結婚式はウチの旅館であげさせていただきますよ、大事な妹ですから、せめて結婚式くらいねえ」

楓「……あの……」

千鶴「早く、日本も同性愛が法律で認めてもらえると嬉しいですね。 それじゃ、また」

楓「姉さん……あなたには赤い血は流れていないの?」

千鶴「私は耕一さんを守るためなら、どんな手も使うわ」

楓「……鬼」

千鶴「元からよ」

 

 

 

 ちゅん、ちゅん。

 ばさばさばさ。

 

耕一「……ふああ、清々しい朝だなあ」

 

 珍しく、朝から気持ち良く起きる事ができた。

 そそぐ日差しは暑さを残しているものの、体に感じる風は涼しげで秋の訪れを予感させる。

 

耕一「もう夏も終わりか……夏らしい事をしてる余裕もなかったなあ」

 

 柔らかい陽の光を浴びて、あくびをしながら背伸びをする。

 

耕一「さ、もう一眠りするか」

梓「寝るな〜っ!!」

 

 どげしっ!!

 

耕一「朝っぱらから何しやがるっ!!」

 

 振り向いた耕一が見たのは、向日葵のような笑顔を浮かべた梓だった。

 

梓「今日は、あたしと出かける約束だろっ!! 忘れてんじゃ無いだろうね」

耕一「だからって蹴らなくても……」

梓「いいから、いいから、早く朝飯くって出かけよう」

耕一「ああ、そうだな」

 

 梓は終始笑顔で話していたが、耕一は気が重かった。

 初音の時同様に、みんなが怖い顔になっているのを想像したのだ。

 しかし……。

 

千鶴「今日は良いお天気で良かったですねえ」

耕一「ええ……」

 

 千鶴は終始笑顔のまま、何事も無く食卓が終わってしまった。

 ただ、楓や初音は何かに怯えたかのように無言だった。

 

耕一「何かあるな……」

 

 

梓「さてと、耕一、でかけよう」

耕一「ああ、何処に行くんだ?」

梓「遊園地ってのはどうかな」

耕一「遊園地?」

梓「そう、まあ、デートらしくていいかなと」

耕一「(確かに……どう考えても健全だ)そうだな」

梓「じゃ、行こうか」

 

 

楓「梓姉さん……どこに行くつもりなんだろう……」

千鶴「ウチの系列の遊園地じゃないかしら、最近できたから」

初音「そうか、観覧車とかで二人っきりになるつもりだったんだね」

 

 王道である。

 ただし、これがギャグSSじゃ無かったらの話ではあるが……。

 

 

 

 

 

 1時間後……。

 電車に揺られてついた所は、鶴来屋系列の遊園地。

 

耕一「ほ〜、こんな所も鶴来屋系列なのか」

梓「そう、だからチケットもフリーパス」

かおり「おっきな遊園地ですねえ」

 

 ……。

 

耕一「で、何があるんだ?」

梓「ジェットコースターとか、お化け屋敷とか」

かおり「梓先輩といっしょに観覧車に乗りたいですぅ」

 

 ……。

 

梓「何でアンタがここにいるのよ〜っ!!」

かおり「お姉さんに教えて頂いたんです」

梓「あんの、年増の偽善者が〜っ」

 

 

 ぴしっ……。

 空気が凍りつく。

 

 

コートとサングラスの怪しい女性「……ふっふっふ、そうよ、どうせ私は年増の偽善者よ……」

中学生らしき少女「ね、姉さん……」

小学生らしき少女「お、お姉ちゃん落ちついてっ」

 

 

 

 

耕一「ま、まあ、せっかくだから三人で何か乗ろうか」

かおり「あなた邪魔です」

梓「かおり、ちょっとこっちにおいで……」

かおり「はい♪」

 

 

 ……。

 ずがっ、どがっ、ばきっ、ぐちゃっ……。

 遠くから、何かを壊すような音が響く。

 

 

耕一「……」

梓「なんだか、かおりの奴、お腹が痛いから帰るって」

耕一「……そうか……分かった」

 

 

 ぐちゃってなんだ、ぐちゃって……。

 心の中でつっこみを入れる耕一だった。

 

 

 

 

 

偽善者「……ちい、役立たずがっ」

中学生「ね、姉さん」

小学生「は、早く救急車を呼ばないと」

 

 

 

 

 

梓「じゃあ、お化け屋敷に行こうよ」

耕一「そうだな」

 

 

 

中学生「危険ね、いくらでも抱き付くチャンスがある」

小学生「梓お姉ちゃん考えたね」

偽善者「早く追いかけないと」

 

 ……。

 

中学生「姉さん、初音、頑張って」

偽善者「私は出口を見張っているから、あなた達は中を」

小学生「お姉ちゃん達で中に入ってよ〜っ」

 

 ……。

 

偽善者「早くしないと耕一さん達がっ」

中学生「だから姉さんと初音で」

小学生「私は出口にいるからっ」

 

 

 

 その頃、耕一と梓は……。

 

耕一「なあ、そんなに怖いんだったら入らなかった方が良かったんじゃないのか?」

梓「……うううっ……」

 

 二人っきりで、思いっきり引っ付いてはいるものの、この状態ではどうかという……。

 

耕一「(うう……む、胸が……)梓、大丈夫だから心配するな」

 

 かなり効果は高かったらしい。

 

 

 

耕一「じゃあ、次はどこに行くか」

梓「それじゃ、アレは?」

 

 梓が指差す先には……。

 

耕一「こ、こーひーかっぷですか……」

梓「さ、さすがに恥ずかしいかな」

 

 コーヒーカップ。

 カップに乗って、真ん中のテーブルを動かすと回転速度が増し、やりすぎると目が回る凶悪な乗り物。

 カップルで乗ってる姿はとても微笑ましい物がある。

 

耕一「……や、やっぱり少し恥ずかしいな」

梓「うん……」

 

 ごろごろごろ……。

 回るコーヒーカップ。

 カップルで乗っていれば微笑ましいが、それに異様な雰囲気の女性達が乗っていたら、どうだろうか。

 

偽善者「ふっふっふ……」

中学生「梓姉さん……いいなあ」

小学生「……」

 

 ごろごろごろ……。

 コーヒーカップは回る。

 初々しいカップルのような二人を乗せて回る。

 

 コーヒーカップは回る。

 殺気と憎悪と嫉妬の塊と化した三人を乗せて回る。

 

 

 

耕一「さ、それじゃ、次は何に……」

梓「耕一、そろそろお腹がすいたりしてない?」

耕一「ん? そういや、そろそろ昼時だな……」

梓「ふっふっふ、実は弁当を作ってきてるんだよね」

耕一「おおっ、さすがは梓」

 

 

 

 

偽善者「そうね……お弁当と言うのはポイント高いのかしら……じゃあ、私も自分のときは……」

中学生「……」

小学生「うん、きっと良いと思うよ」

 

 

 ごめんなさい、耕一さん。

 あなたの犠牲は無駄にしないから……。

 わりとあっさり見捨てられてる耕一だった。

 

 

 

 

 

 

梓「いっぱい作ってきたからね」

耕一「う〜ん、このハンバーグが絶品だな」

かおり「さすがは先輩、料理上手ですよねえ」

梓「いや〜、毎日作ってるから……って、かおりっ!!」

かおり「先輩ったら二人きりになったからって照れちゃって♪」

 

 

 がしっ、ず〜り、ず〜り……。

 ドガッ、バキッ、ズドッ、ザクッ、ドムッ……。

 

 

梓「あの娘ったら今度は頭が痛いんだってさ」

耕一「……なあ、梓……手に赤い物がついてるんだが……」

梓「あれっ? ケチャップでも付いたかな?」

 

 こんな時は、ケチャップを使った料理なんて無いだろうと突っ込むべきだろうか……。

 それとも、何をしてきたのか聞くべきなんだろうか……。

 ま、いいか、さすがに梓でも殺しはしないだろう。

 

 そんな風に、耕一は自分を納得させた。

 

 

偽善者「さっきので良く生きてたわね……実は鬼の血でも引いてるのかしら」

中学生「梓姉さん、殺す気でやってたのに起きあがってくるなんて……」

小学生「愛の力って凄いんだね」

 

 

かおり「……ねばー、ぎぶあっぷ……」

 

 ガクッ。

 

 

 

 

 

 かくして、二人が結構良い雰囲気の中、時間が過ぎていった。

 それにつれて、怪しい三人組もますます雰囲気を悪化させて行くのだった。

 

どっかの子供「ねえ、ママ、あのお姉ちゃん達……」

その母親「見ちゃいけませんっ!!」

 

 

 

 

耕一「さて、時間もそろそろ良い頃かな」

梓「じゃあ、最後に観覧車に乗ろう」

耕一「そうだな」

 

偽善者「くっ、追うわよ」

中学生「うん」

小学生「梓お姉ちゃん……許さないよ」

 

 

 観覧車の列に並ぶ、梓と耕一。

 端から見ると、普通のカップルにしか見えなかった。

 だから係りの人がこう聞いたのは、別に自然な事だった。

 

 

係り「お二人様ですね」

梓「ええ、そうです」

 

 普通、遊園地の観覧車は相乗りというのをやらない。

 ゆえに、すぐ後ろの三人が、一緒に乗りたくても乗れないのである。

 

偽善者「くっ、仕方ない、すぐ次のに乗るわよ」

中学生「ええっ」

小学生「うん」

 

 

 夜のとばりが降りる直前。

 街の明かりはだんだんとつき始め、綺麗な夜景が観覧車から眺められる。

 

 

耕一「結構綺麗だな」

梓「うん」

耕一「どうだ、梓、今日は楽しかったか?」

梓「うん、楽しかった」

耕一「そっか、なら良かった」

 

 

 そんな良い雰囲気の二人の言葉を、鬼の能力で聞いてる三人がいた。

 

偽善者「くっ、梓〜っ!! 絶対に許さないからねっ!」

 

 どがっ、どがっ、どがっ……。

 

中学生「姉さん、暴れるのはやめてっ!!」

偽善者「止めないでちょうだい、楓っ」

中学生「こんな所で暴れたら……」

 

 その瞬間、全体のバランスが崩れた事により観覧車が急に止まる。

 

梓「わわっ」

耕一「梓っ」

 

 バランスを崩した梓が倒れこんだのは、対面に座っていた耕一の腕の中だった。

 

 

 

 息も詰まる瞬間。

 お互いの暖かさが伝わってきて、身動きもできない。

 離れようにも体が固まってしまっていた。

 

 

 

 

 

係り「ただいま、事故が発生しまして観覧車が止まっています、復旧までしばらく時間がかかりますので動かずにお待ち下さい」

中学生「どうするのっ、しばらく観覧車が止まっていたら、その間あの二人はずっとその中なのよっ!!」 

小学生「耕一お兄ちゃんにもしもの事があったら……梓お姉ちゃんに襲われちゃうよ〜っ」

偽善者「……私は……なんてことを……」

 

 

 

 

 

 

 そんな中、耕一と梓は、お互いに動けないまま固まっているのだった。

 

 

梓「耕一……暖かい」

耕一「そうか……」

梓「うん……」

 

 

 相手の吐息を肌で感じられる距離。

 それ以上はお互い踏み込む事も、戻る事もできなかった。

 それでも……と梓は思う。

 今日はとても良い日だったと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かおり「梓先輩……」

 

 その頃、観覧車の出口には、どうやって復活したのか、かおりがいた。

 

(続く……)