(注)このSSは「痕」の千鶴END後を想定して書かれてますので、できればゲームをクリアしてからお読みいただけるとよりお楽しみ頂けます。
尚、このHPに寄稿した「悲しいすれ違い」の続編にあたりますのでぜひそちらを先にお読みください。
苦情、抗議、剃刀等危険物は管理人さんでなく作者まで。

 

 

 

 

『悲しいすれ違い-step-』

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢……。

 夢を見ている……。

 あの頃……まだ、共に生きるべき人が側に居た頃……。

 お互いに人では無くても、心は通じ合った。

 お互いに違う種族でも、想いは通じ合った。

 お互いに立場が違っても、違いを乗り越えることができた。

 

 そう、俺にとっては彼女は半身のようなものだった。

 

次郎衛門「エディフェル……俺は、こんな北の果てまで来てしまったよ……」

 

 たとえ、どこにいったとしても、彼女がいるわけではない。

 そして、俺の鬼の本能は、自分自身を殺す事を許してくれない。

 

 たとえ、生き続けることが地獄でも、死ぬ事は許されない。

 

 

リネット「次郎衛門……」

 

 ばかな……どうして、ここにリネットが……。

 

次郎衛門「リネット……どうしてここが……」

リネット「あなたの心を感じ取っていたんです。あなたが姉様の事を考えて、泣いているのが伝わってきたから……」

次郎衛門「泣いている?……俺が?」

 

 恐らく血の涙でも流していたのだろう。

 リネットの悲しそうな顔が……余計に俺を苦しめる。

 体中から、嫌な汗が出ていた。

 

リネット「あなたが姉様のことを考えて、涙を流すぐらいは構いません」

次郎衛門「……」

リネット「でも、だからといって、姉様に似た女性と、ふもとの村で堂々と浮気しようとするなんて……」

次郎衛門「……(汗)」

リネット「覚悟はよろしいですね?」

次郎衛門「なあ、リネット、何度も言うが、あれは向こうから話しかけてきて……」

リネット「問答無用です」

次郎衛門「誤解だって言っておるのに、何故信じてくれぬ」

リネット「だったら、どうして、こんなに遠く離れた大陸まで逃げてくるのですか?」

次郎衛門「何も聞かずに、お前が刃物を振るってくるから……」

 

ぶうん。

 

 鈍い音が響き渡る。

 

リネット「あなたを殺して、私もあの世へ旅立ちます。だから淋しくなんて無いですよね」

次郎衛門「頼むから話を……」

 

 

 

 

 

ガバッ。

 

 目覚めた時、そこは純日本風の畳の部屋で、見たことのある家だった。

 

耕一「……夢か……良かった」

 

 なんて嫌な夢だ。

 思い出すだけで、冷や汗がでる。

 

初音「お兄ちゃん、どうしたの?」

耕一「あっ、初音ちゃん」

初音「凄い汗だよ……お兄ちゃん、大丈夫?」

耕一「ああ、大丈夫、昨日暑かったからさ」

初音「朝ご飯ができてるよ、早く食べに行こう♪」

耕一「ああ、じゃあ、すぐに行くよ」

 

 着替えて、顔を洗い、食卓のある居間へ向かう……。 

 夏だと言うのに、居間の空気はとても冷たかった。

 触れたら、斬れそうなぐらいに……。

 

耕一「おはよう……」

 

千鶴「おはようございます、耕一さん」

楓「おはようございます……」

梓「……遅い……」

 

 言葉を聞いている限りは普通にしか見えない。

 それなのに、部屋の空気は凍ったかのように冷たく、研ぎ澄まされていた。

 

 俺は、こんなことになってしまった原因を思い返していた……。

 

 事の起こりは一昨日。

 大学の学食で、みんなを落ち着かせるために言った一言が原因だ。

 

耕一「明後日、休みだからどこかに行こうか」

 

 結果、1日中、初音ちゃんとつきあう事となった。

 これは完全に偶然によるものだ。

 なにせ、サイコロ振って決めたんだから……。

 勿論、他の皆とも、また違う日にデートするという約束を取り付けてある。

 が、当然のことながら、初音ちゃん以外は神経を尖らせているわけで……。

 

初音「お兄ちゃん、どこに行こうか」

 

 初音ちゃん、甘えてくるのは嬉しいんだけど、千鶴さんの視線が痛いよ。

 あ、梓が箸を握りつぶしてる……。

 楓ちゃんの表情も怖い……。

 

耕一「ははは……初音ちゃんの行きたい所でいいよ」

 

 この後、俺はこの台詞を、めちゃくちゃ後悔する事となる。

 

 

 

 

初音「じゃあ、まずこの喫茶店で」

耕一「……ははは」

 

 そこは、恋人達が集まるような喫茶店だった。

 そう、周りはカップルだらけ。

 

初音「えへへ、やっぱりお兄ちゃんと私も、カップルに見られてるのかな」

耕一「そうかもね」

 

 その時の俺の目は、夏だと言うのにコートを着てサングラスをつけた、怪しい三人組の姿を捉えていた。

 だから、初音ちゃんが何を注文したのか……。

 

店員「おまたせしました、カップル用スペシャルドリンクです」

 

 見るまで考えもしなかった。

 

耕一「……」

 

 一つのジュースにストローが2本。

 お約束だ。

 普通に恋人どうしで飲む分には、別段恥ずかしいとか無いのかもな。

 

店員「お客様、御注文はどうされますか?」

千鶴さんに似たサングラスの女性「アイスティー3つ」

楓ちゃんにそっくりな(以下略)「ついでにチョコレートパフェも2つ」

梓に(以下略)「初音のやつ……あんなの頼んで」

千鶴さんに(以下略)「初音もやるわね、うかうかしてられないかも」

梓(以下略)「は、初音の奴、こっそり酒や目薬まで混入してる」

千鶴(以下略)「いったい、耕一さんに何するつもりっ!!」

楓(以下略)「フルーツパフェ3つ追加してください」

 

 視線が痛いよ……。

 

初音「お兄ちゃん、早く飲もうよ」

耕一「……うん」

 

 その時俺は、早くこの場をでて、もう少し安全な所に行こうと決意していた。

 

初音「それじゃ、次は……」

耕一「映画なんてどうかな、今、アクション映画で面白いのがやってるらしいよ」

 

 これなら、危険は無いだろう。

 そう思った。

 

 

 

 

 が、そうそう甘くは無かった。

 

初音「こっちのホラー映画の方が、面白そうだよ」

 

 にこっ。

 ああ、俺はこの笑顔には弱いよなあ……。

 結局押しきられた結果、ホラー映画を見ることとなった。

 

 よく考えてみたら、喫茶店以上に危険な気もするのだが……。

 

初音「お兄ちゃん、怖いよ」

 

 初音ちゃんが抱き付いてくる。

 ああ……腕に胸の感触が……。

 ついでに首筋には誰かの視線が……。

 

 ああ……どうにかして……ここから抜け出したい。

 

 

 映画が終了した。

 俺は、どうやら耐えきったらしい。

 俺は自分の忍耐力を、自分で褒め称えたいと思った。

 

耕一「ふぅ〜さて、それじゃ次は何処に行こうか」

初音「すぅ〜すぅ〜」

耕一「初音ちゃん?」

初音「すぅすぅ〜」

 

 疲れたのかな?

 眠ってしまったらしい。

 

梓に(以下略)「初音ったら、さっきのドリンクで、自分が先に効いちゃったみたいだね」

千鶴(以下略)「良かった、何事も起きなくて」

楓(以下略)「ポップコーン3つとコーラのL1つ、ホットドッグ4つ下さい」

 

 

耕一「さて、帰ろうか」

 

 初音ちゃんを背負って、帰る事にした。

 

初音「むにゃむにゃ……耕一お兄ちゃん……」

耕一「ははは、俺の夢を見てくれてるんだ」

初音「……お姉ちゃん達は、これから始末するから安心してね……すぅすぅ」

耕一「……ははは……」

 

 

 帰ったときの三人の反応がちょっと怖い。

 しかし、何も無かったのをしっかり見てるわけだから、問題は無いだろう。

 なにはともあれ、今日が無事に終わった事を感謝することにしよう。

 そんな風に思いながら帰路につくのだった。

 

 

 

 

楓(以下略)「たこ焼き5パックと、お好み焼き3枚下さい」

千鶴(以下略)「ちょっと楓、あなたどれだけ食べたら気がすむの?」

梓(以下略)「もしかして、ヤケ食いでもしてるのか?」

楓(以下略)「……ううっ、耕一さん……モグモグ」

(続く)