(注)このSSは「痕」の千鶴END後を想定して書かれてますので、できればゲームをクリアしてからお読みいただけるとよりお楽しみ頂けます。
尚、このHPに寄稿した「悲しいすれ違い」の続編にあたりますのでぜひそちらを先にお読みください。
苦情、抗議、剃刀等危険物は管理人さんでなく作者まで。
『悲しいすれ違い-step7-』
夢……。
夢を見ている……。
あの頃……まだ、共に生きるべき人が側に居た頃……。
お互いに人では無くても、心は通じ合った。
お互いに違う種族でも、想いは通じ合った。
お互いに立場が違っても、違いを乗り越えることができた。
そう、俺にとっては彼女は半身のようなものだった。
次郎衛門「エディフェル……俺は、こんな北の果てまで来てしまったよ……」
たとえ、どこにいったとしても、彼女がいるわけではない。
そして、俺の鬼の本能は、自分自身を殺す事を許してくれない。
たとえ、生き続けることが地獄でも、死ぬ事は許されない。
リネット「次郎衛門……」
ばかな……どうして、ここにリネットが……。
次郎衛門「リネット……どうしてここが……」
リネット「あなたの心を感じ取っていたんです。あなたが姉様の事を考えて、泣いているのが伝わってきたから……」
次郎衛門「泣いている?……俺が?」
恐らく血の涙でも流していたのだろう。
リネットの悲しそうな顔が……余計に俺を苦しめる。
体中から、嫌な汗が出ていた。
リネット「あなたが姉様のことを考えて、涙を流すぐらいは構いません」
次郎衛門「……」
リネット「でも、だからといって、姉様に似た女性と、ふもとの村で堂々と浮気しようとするなんて……」
次郎衛門「……(汗)」
リネット「覚悟はよろしいですね?」
次郎衛門「なあ、リネット、何度も言うが、あれは向こうから話しかけてきて……」
リネット「問答無用です」
次郎衛門「誤解だって言っておるのに、何故信じてくれぬ」
リネット「だったら、どうして、こんなに遠く離れた大陸まで逃げてくるのですか?」
次郎衛門「何も聞かずに、お前が刃物を振るってくるから……」
ぶうん。
鈍い音が響き渡る。
リネット「あなたを殺して、私もあの世へ旅立ちます。だから淋しくなんて無いですよね」
次郎衛門「頼むから話を……」
ガバッ。
目覚めた時、そこは純日本風の畳の部屋で、見たことのある家だった。
耕一「……夢か……良かった」
なんて嫌な夢だ。
思い出すだけで、冷や汗がでる。
初音「お兄ちゃん、どうしたの?」
耕一「あっ、初音ちゃん」
初音「凄い汗だよ……お兄ちゃん、大丈夫?」
耕一「ああ、大丈夫、昨日暑かったからさ」
初音「朝ご飯ができてるよ、早く食べに行こう♪」
耕一「ああ、じゃあ、すぐに行くよ」
着替えて、顔を洗い、食卓のある居間へ向かう……。
夏だと言うのに、居間の空気はとても冷たかった。
触れたら、斬れそうなぐらいに……。
耕一「おはよう……」
千鶴「おはようございます、耕一さん」
楓「おはようございます……」
梓「……遅い……」
言葉を聞いている限りは普通にしか見えない。
それなのに、部屋の空気は凍ったかのように冷たく、研ぎ澄まされていた。
俺は、こんなことになってしまった原因を思い返していた……。
事の起こりは一昨日。
大学の学食で、みんなを落ち着かせるために言った一言が原因だ。
耕一「明後日、休みだからどこかに行こうか」
結果、1日中、初音ちゃんとつきあう事となった。
これは完全に偶然によるものだ。
なにせ、サイコロ振って決めたんだから……。
勿論、他の皆とも、また違う日にデートするという約束を取り付けてある。
が、当然のことながら、初音ちゃん以外は神経を尖らせているわけで……。
初音「お兄ちゃん、どこに行こうか」
初音ちゃん、甘えてくるのは嬉しいんだけど、千鶴さんの視線が痛いよ。
あ、梓が箸を握りつぶしてる……。
楓ちゃんの表情も怖い……。
耕一「ははは……初音ちゃんの行きたい所でいいよ」
この後、俺はこの台詞を、めちゃくちゃ後悔する事となる。
初音「じゃあ、まずこの喫茶店で」
耕一「……ははは」
そこは、恋人達が集まるような喫茶店だった。
そう、周りはカップルだらけ。
初音「えへへ、やっぱりお兄ちゃんと私も、カップルに見られてるのかな」
耕一「そうかもね」
その時の俺の目は、夏だと言うのにコートを着てサングラスをつけた、怪しい三人組の姿を捉えていた。
だから、初音ちゃんが何を注文したのか……。
店員「おまたせしました、カップル用スペシャルドリンクです」
見るまで考えもしなかった。
耕一「……」
一つのジュースにストローが2本。
お約束だ。
普通に恋人どうしで飲む分には、別段恥ずかしいとか無いのかもな。
店員「お客様、御注文はどうされますか?」
千鶴さんに似たサングラスの女性「アイスティー3つ」
楓ちゃんにそっくりな(以下略)「ついでにチョコレートパフェも2つ」
梓に(以下略)「初音のやつ……あんなの頼んで」
千鶴さんに(以下略)「初音もやるわね、うかうかしてられないかも」
梓(以下略)「は、初音の奴、こっそり酒や目薬まで混入してる」
千鶴(以下略)「いったい、耕一さんに何するつもりっ!!」
楓(以下略)「フルーツパフェ3つ追加してください」
視線が痛いよ……。
初音「お兄ちゃん、早く飲もうよ」
耕一「……うん」
その時俺は、早くこの場をでて、もう少し安全な所に行こうと決意していた。
初音「それじゃ、次は……」
耕一「映画なんてどうかな、今、アクション映画で面白いのがやってるらしいよ」
これなら、危険は無いだろう。
そう思った。
が、そうそう甘くは無かった。
初音「こっちのホラー映画の方が、面白そうだよ」
にこっ。
ああ、俺はこの笑顔には弱いよなあ……。
結局押しきられた結果、ホラー映画を見ることとなった。
よく考えてみたら、喫茶店以上に危険な気もするのだが……。
初音「お兄ちゃん、怖いよ」
初音ちゃんが抱き付いてくる。
ああ……腕に胸の感触が……。
ついでに首筋には誰かの視線が……。
ああ……どうにかして……ここから抜け出したい。
映画が終了した。
俺は、どうやら耐えきったらしい。
俺は自分の忍耐力を、自分で褒め称えたいと思った。
耕一「ふぅ〜さて、それじゃ次は何処に行こうか」
初音「すぅ〜すぅ〜」
耕一「初音ちゃん?」
初音「すぅすぅ〜」
疲れたのかな?
眠ってしまったらしい。
梓に(以下略)「初音ったら、さっきのドリンクで、自分が先に効いちゃったみたいだね」
千鶴(以下略)「良かった、何事も起きなくて」
楓(以下略)「ポップコーン3つとコーラのL1つ、ホットドッグ4つ下さい」
耕一「さて、帰ろうか」
初音ちゃんを背負って、帰る事にした。
初音「むにゃむにゃ……耕一お兄ちゃん……」
耕一「ははは、俺の夢を見てくれてるんだ」
初音「……お姉ちゃん達は、これから始末するから安心してね……すぅすぅ」
耕一「……ははは……」
帰ったときの三人の反応がちょっと怖い。
しかし、何も無かったのをしっかり見てるわけだから、問題は無いだろう。
なにはともあれ、今日が無事に終わった事を感謝することにしよう。
そんな風に思いながら帰路につくのだった。
楓(以下略)「たこ焼き5パックと、お好み焼き3枚下さい」
千鶴(以下略)「ちょっと楓、あなたどれだけ食べたら気がすむの?」
梓(以下略)「もしかして、ヤケ食いでもしてるのか?」
楓(以下略)「……ううっ、耕一さん……モグモグ」