このSSは『Kanon』を元に書かれています。
ネタばれを多少含みますので、ゲームをしてからお読み下さい。

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『予感』

byフカヒレ 2000/5/27

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 待ちつづけていた。

 今日はなんとなく、そんな予感があった。

祐一「もう2年以上待ってるんだぞ」

 野原に転がって見る星は、春の星空だった。

 2年と数ヶ月。

 現れたときに言ってやるつもりで、時間までしっかり数えている。

祐一「今、19999時間と30分30秒」

 持ってきたビールを飲む。

 喉に苦さが染みる。

 美味いなんて思わない。

 酔いたくて飲んでいるだけだ。

祐一「お前に会う前に飲んだビールは、美味かったんだけどな」

 それ以前に、食べ物の味も分からなくなっていた。

 何かを食べても、何かを飲んでも、味を感じない。

 そういえば、何かを聞いても何も感じなくなっていた。

祐一「北川にも今のお前は抜け殻みたいだなんて言われたっけな」

 他には、この2年間何を言われたか覚えていない。 

 きっと大事な事を忘れたくなかったからだろう。

 

 そう、1日だって、忘れた事は無かった。

 

祐一「秋子さんや名雪も待ってるんだぞ」

 2本目のビールも開けてみる。

 酔えやしない。

祐一「酔えるようなら、この2年間も、もう少しはましだったのかな……」

 とてもじゃないが、酔えるような気分でもなかった。

 毎日、毎日、帰りを待ちつづけていた。

 朝が夜になって、夜が朝になって、朝が夜になって、夜が朝になる。

 その繰り返しだ。

 

 そう、その繰り返しだけだった。

 

祐一「もう、肉まんなんて店先で売ってないんだぞ」

 冷凍物の肉まんを、温めて持ってきていた。

 近頃では見るのも嫌になっていた物の一つだ。

 見れば、どうしても思い出してしまう。

 見るのを避けて、コンビニすら行かなくなった。

 

 唯、なんとなく今日はそんな予感がしていたから……。 

 

 

祐一「まったく待たせやがって」

 待っているのが辛くなって、探しにいったこともあった。

 1日中歩きつづけた。

 似たような格好の女の子を見かけては、声をかけたりした。

 髪の色だけで、期待した事もあった。

 焦っていたんだろう。

 なにせ、どこにも見つからないんだから。

 それでも、どこかにいることを信じて、探し続けた。

 信じて手に入るなら、神や仏のありがたみもあるんだろうな。

 今まで、願いが届く事も無かった。

 届かない想い。

 砕け散る期待。

 いつもの事だ。

 もう、何も感じなくなっていた。

 

 夢。

 夢でなら会える。

 夢にすがって、現実から逃げ出したときもあった。

 けど、夢はいつかは覚める。

 目覚めた時、そこにあるのは唯の現実。

 目覚めた時、突きつけられるのは真実。

 そこには、夢も希望も無い。

 唯の現実。

 現実から逃げ出しても、朝を迎えれば追いつかれる。

 そのうち、夢の中の笑顔までぼやけてきた。

 夢をみるのが怖くなった。

 希望を持ちつづけるのが辛くなった。

 

 2年が過ぎていた。

 長かったのか、短かったのか。

 それは、よく分からない。

 そんなことを考えることも無くなっていた。

 

 春とは言え、まだ夜は寒い。

 風が吹いて、冷え込んでくる。

 一際大きな風が吹いたとき、どういうわけか天使の翼が見えたような気がした。

祐一「いったい、何時間待ったと思ってるんだよ」

 2年前なら何か反撃の言葉が返ってきたような気がする。

 けれど、今は泣いてるだけだった。

 もちろん嬉しさは言葉にできないほどだった。

 唯、なんとなく素直に嬉しさを出すのが悔しかった。

 なんせ2万時間も待たされたんだから……。

 

 

 

 

 

 

 

『くじういんぐ!』20000Hit

おめでとうございます!!

 

 

(終わり)