このSSは『AIR』の佳乃シナリオのネタばれを含んでいます。
ですので、ゲームをやってからお読みいただきますとよりお楽しみ頂けます。
このSSに対する苦情、お問い合わせ、お叱り、激励、叱咤等は管理人さん当てでは無く、作者までお願い致します。
「くっ、血圧が低下してきたか!!」
「往人くんっ!! お願い、目を覚まして〜っ!!」
「国崎君、しっかりしろっ!!」
「ぴこ〜っ!!」
人は自分の大事な物が奪われる事に恐怖する。
「がはっ」
「お、お姉ちゃん、血が……」
「いかん、輸血の準備もしないとっ!!」
それは、人であったり物であったりするが、何故人はそれを恐れるのか?
「ううっ、くうっ」
「国崎君、気がついたのかっ!!」
「往人くん……良かったよ〜」
「ぴこ〜」
それは、誰でも一度は大事な物を亡くした経験があるからだろう。
だからこそ人はそれを恐れる。
「……あ、あれ? ここは……」
「良かった……大事には至らなかったか……」
「ううっ、あううう、ぐすっ」
「ぴこぴこ〜ん」
大事な物は人によって様々だろう。
失いたくない物を数え切れぬほど抱える人もいるだろう。
では、その中でも……一つあなたが一番大事だと思うのはなんだろうか?
「原因は……食中毒だな……分かりきった事だが……」
「もう、二度と佳乃の料理は食わん」
「え〜っ、どうして?」
「食うたびに、命が危険な物を食えるかっ!!」
一つだけの大事な物……自分の命と答える人は多いことだろう。
だから、この国崎の発言は至極まっとうな物だった。
「じゃあ、いっぱい練習して美味しい物を作って見せるからね!!」
「……」
「……」
「ぴ……ぴこ」
そして、言葉から生み出される結果とは……普通、とんでもない方向に行く物なのだ。
『願いの代償に得た物』
〜やってはいけないことをする人達〜
表の章
「……はあ……」
霧島聖。
霧島診療所の若い女医。
美人。
家事もこなす。
痴漢や悪漢は得意のメスさばきで追い払う。
正になんでもこいってな無敵の女性。
だが、そんな彼女にも……。
「佳乃……ゆで卵を作るときは、鍋でゆでなさい」
「ほえっ? 電子レンジじゃだめなの?」
「ダメだ」
「そうなんだ〜、知らなかったよ」
妹の料理を上達させるというのはかなり困難なものだったようだ。
話は数時間前にさかのぼる……。
「じゃあ、いっぱい練習して美味しい物を作って見せるからね!!」
「……」
「……」
「ぴ……ぴこ」
「ということで、お姉ちゃん、料理教えて」
「……選択の余地は無しか……分かった、さすがにずっとそのままという訳にもいかないだろうしな」
「ありがと〜、じゃあ、往人くんとポテトは味見の実行部隊に任命〜……あれっ?」
「……逃げたな……」
1人と1匹の味見実行部隊はすでに敵前逃亡済みだった。
「後で、極刑だな……佳乃、ところで今何が作れるのかな?」
「え〜とね……お料理の本を見たりすれば一通りは作れると思う」
「そうか」
「じゃあ、卵焼きを作るね♪」
コンコン、グシャ!
「あっ、卵つぶれちゃった……」
「……ま、まあ、殻を除けば大丈夫だろう」
「うん、取り除いたよ〜」
「じゃあ、かき混ぜて……」
ガシャガシャ……。
「黄身と白身がちっとも混ざらないねえ♪」
「……じゃあ、調味料を入れようか……」
「え〜と、お砂糖と、隠し味のお塩」
トスッ……ドサッ!!
「塩がいっぱいだとしょっぱくなってしまうぞ」
「う〜ん、失敗、失敗」
「じゃあ、焼いてみようか」
「卵焼き用のフライパン出してくるね〜……キャッ」
どんがらがっしゃーん……。
「怪我は?」
「大丈夫、往人くんがかばってくれたの」
「……くっ、不覚……つい、体が……」
「どこにいたんだ?」
「その辺に隠れてたんだよ……」
「どうして、隠れてたの?」
「……ポ、ポテトとつい夢中になってだな……決して他の理由があるわけでは」
「う〜っ、かくれんぼで仲間はずれにするなんてひどいよ〜」
「まあ、ちょうど良い、焼いた卵焼きは国崎君に食べてもらうとするか」
「……」
「じゃあ、フライパンを火にかけて」
かち、ご〜っ。
「卵を流して」
どばどば〜。
「あれ?あふれちゃった」
「佳乃、惜しかったな、まずは油を引かないと」
「おおっ、なるほど」
「そして、卵は少しづつ入れていけば完璧だ」
「そっか、いっぺんにいれたからあふれちゃったんだね」
「……あの溶けきってない粉状の物はなんだ……」
「国崎君、塩も知らんのかね」
「……現実を見たくなかっただけだ……」
「なるほどな、同感だ」
「底が真っ黒になっちゃった、でもできたよ〜♪」
「まあ、試食は国崎君にまかせて、次の料理に行こう」
「聖……後で胃薬を頼む」
「ふっ、君がいてくれて良かったよ……さすがにあれはちょっとね」
「あんたそれでも医者か?」
「私は医者である前に人なのでね……」
かくして料理修行は続く。
卵焼き、目玉焼き、ゆで卵などなど簡単なはずの料理が……。
「この目玉焼きは黄身と白身が混ざった上に、完全に焦げてるぞ」
「味がついてないだけマシだと思ってくれ」
「普通、塩や胡椒をふらないか?」
「あの子に常識が通用するとでも思ったのか?」
「まあ、下手に塩山盛りの物を食わされるよりは、自分で醤油かけて食ったほうがはるかにマシだな」
「卵の底が焦げてる……」
「あやうく鍋までおしゃかになる所だったよ」
「それなのに、何故中身はどろどろなんだ?」
「ある意味天才的なゆで方なのかもしれないな」
「じゃあ、次は包丁を使ってみよう」
「なあ……すでに結果が見えてると思うんだが」
「残念だが、あの子が乗り気なのに、止めようなんて思えるほど私は冷たくなれないのでね」
「それじゃあ、ほうれん草とベーコンと、玉葱で野菜炒めを作りましょう!!」
「それは美味しそうだな……良かったな国崎君」
「……まともな物ならな……」
「じゃあ、まずはベーコンさんを一口大に」
ザックザック……。
「……どうして、こうも上手く、全ての大きさが不ぞろいに切れるんだろう」
「別にベーコンの大きさが揃ってなくてもそれほど問題無いだろう」
「じゃあ、あんたが試食しろ」
「ごめんこうむる」
「じゃあ、玉葱を切りま〜す」
「……」
「眼がしみる〜、大洪水だよ〜」
「……おい……そこの過保護な姉……」
「なにかな? 妹の為に競泳用ゴーグルを用意してはいけないのかね?」
「それにしても……なんで競泳用ゴーグルがあるんだ……?」
「女性には秘密が多いものなのだよ」
「あっ、お姉ちゃんありがとう〜♪ さあ、玉葱さん覚悟〜」
ザックザック……。
「……根元が残ってる……」
「皮を剥いただけ良いと思いたまえ」
「あのやたら厚いのが皮だけならな……」
「玉葱はある意味どこまでも皮だ」
「次はほうれん草〜♪」
「……なあ、なんであそこまで佳乃は料理が出来ないんだ?」
「……私がいつも作ってたからな……」
「にしても限度はあるだろう?」
「まあ……理由はあるんだが……」
「あるんだが?」
「そのうちに話そう……今は……」
「まあ、後で聞かせてもらうぞ……それで、あんたもあの料理を食ったんだよな……」
「死ぬかと思った」
「そう思ったなら何故そう言わないんだ」
「妹が一生懸命作ってくれた料理を、けなす事などできるはずが無いだろう」
「じゃあ、あんたも今作ってる奴を食え」
「国崎君、骨は拾ってやる」
「逃げるのか?」
「私が倒れたら誰が治療するのかね?」
「くっ……」
「できたよ〜っ」
「ほう、出来たか……」
「何だ? この色は……」
「美味しそうでしょ?」
「……そうか、話に気を取られて調味料を確認しなかったな……」
「国崎君、骨は拾ってやる、安心して死んできたまえ」
「えへへ♪ さっそく食べよう、と言う事でそこの二人は味見部隊の隊員に任命」
「「二人?」」
「うん♪」
「「……」」
そして、やっぱりアレでナニだった……。
「なあ、佳乃……味見したか?」
「ううん、してないよ」
「……だろうな」
バタッ。
「ゆっ、往人くんっ?」