でじでじぐあっぷる
「うんぎゃぁ〜〜っ!」
まだお客の入っていない店内の隅々まで、なんとも言えないような絶叫が響き渡る。
ちなみに、ここはビルの中の1フロアを賃貸しているお店だ。
他の方々にはさぞかし迷惑だった事だろう。
まるでこの世の終わりでも体験したかのような、そんな叫び声だった。
ここは、その道の通の人達なら素通りする事の出来ないといわれる聖域、『ゲーマーズ』だ。
通の人達(つまり、そう言う人達だ)の伝説のユートピア、『アニメイト』と肩を並べる、通の人(深くは突っ込まないように)なら誰もが知っている有名な店である。
近頃急速に勢いをつけ、このたび、通の人達(もういい!)と言わず誰もが心踊らずにはいられない、愛と欲望と電子機器の溢れる楽園「秋葉原」に、八階建ての店舗を営う事になったほど、のりに乗っていた。
もう、ホントにびっくりするくらいに急成長をしていた。
それには訳があったのだが。
この驚くほどの急成長に、一人の人物が深く、それはもうとんでもなく深く関わっている。
というよりも、彼女のお陰である。(と、考えてしまうのは私だけであろうか?)
そう、その人物とは女の子だった。
これから語る物語はそのお店を舞台とした、愛と感動と『目からビーム』のお話しである。
ちなみに、ホントにこんな事があるのかどうかは定かではない。
あくまでふぃくしょんデス!
気に入らない表現とかあってもお仕置きはしないで下さいねっ?
「しまったにょ〜!」
女の子は、大きな声で叫ぶと共にとんでもない勢いで飛び起きた。
顔面は蒼白で、玉のような汗をかいている。
右手に持つのは長年愛用している目覚し時計。
視線はその針にくぎ付けだった。
「大変だにょ〜っ、マズイにょ〜っ、やばいにょ〜〜っ!」
時計を凝視したままその場をクルクル回る少女。
少女が動くたびに、その体につけられた大きな鈴達が乾いた音を響かせていた。
さて、ここで少し少女の容姿について説明しよう。
身長は1メートルあるかないか。
大きな鈴が3つほどついている。
ネコ耳、ネコ手、ネコ足がチャームポイントだ!
ふんわりふりふりのメイド服をも思わせるような、えぷろんちっくな服も印象的で、そのすかーとから伸びているしっぽは破壊的な威力を持っている。
ちなみにこの服は決して『こすぷれ』ではなく私服である。
本人がかなり気に入っているらしい。
そしてその顔は、なんとも言えないような可愛らしさ。
その手のおにいさん達ならほっとく事のできないオーラを漂わせていた。
いや、現にその手のおにいさん達から絶大な支持を集めていたのだが。
ぶっちゃけた話、その手のおにいさん達で無くとも多くの人が魅せられていたのである。
宇宙人ってセッテイだし。
「おわ〜っ!なんでだにょ〜〜っ!?」
いままでクルクルと回っていた少女はその動きをピタッ!と止め、手の中の愛用の時計を凝視していた。
時計を掴んでいる両手はわなわなと震るえている。
「どーして目覚ましが止まってるにょ〜っ!でじこは止めた覚えがないにょ〜っ!!」
でじこ、つまり自分のことである。
本人は止めた覚えがないのに目覚し時計が止まっていたらしい。
それで納得がいかないみたいだ。
が。
基本的に目覚ましなど無意識に止めてしまうものである。
はたして自分で認識している人がこの世の中に何人いるのか、そっちの方が疑問である。
ただし、これは筆者の独断と偏見であるが。
少女、でじこ(本名デ・ジ・キャラット。呼ばれる事は皆無に等しい)は納得していなかった。
「おかしいにょ…。なにか大きな陰謀を感じるにょ……」
視線を辺りに、慎重に向けるでじこ。
店の中をゆっくりと、それでいてどんなささいなことも見逃さないように見まわす。
視界になにやら黄色い物体が入ってきた。
『げま』だ。
うわうわ、と空中を漂っている。
爆睡しながら。
その黄色い物体の下の、机と本棚との隙間で、小さな、でじこよりもさらに小さな少女が丸くなってこれまた漠睡している。
その風景になにやらみょ―に殺意を覚えるでじこだった。
黄色い物体、げまは、見事なまでの浮いている黄色い物体であった。
それ以上にどういう風に修飾すればいいのか分からないぐらいに。
ちなみに水分が体に貯まるとでっかくなったりも出きる。
机と本棚(本は入っていないので、本棚とは言わないかもしれない)との隙間で爆睡している少女は、名前をぷちこ(本名プチ・キャラット。こちらも呼ばれることはない)という。
年齢5歳。
トラのかぶりもの(耳付き)をかぶっており、なぜかは分からないがセーラー服を着ていた。
しかも私服。
そして、でじこのちかくに必ずいる。
その理由はよく分からないのだが、じつはぷちこは、昔ちょっとした事からでじこに助けてもらった事があった。
その時からぷちこはでじこと一緒にいるのだ。
それに。
なにやらでじこの『目からビーム』を自分もやりたいらしい。
もっか修行中の身であった。
それができるようになるまではでじこのそばを離れる事はないであろう。
出きるようになったとして、いなくなるかどうかはわからないが。(なる訳ナイし)
そんな2人(正確には2人ではないのだが面倒なので却下)を眺めるでじこ。
利きねこハンドに力が入る。
特にげまがむかつく。
なんていうか、とにかくむかつく。
げまにとっちゃすんごくいい迷惑であるのだが。
「こんちくしょうにょ、なんだかしらんがとっても本当にマジですんごくむかつくにょ!」
ゆっくりとうわうわ浮いている物体(爆睡中)に近づくでじこ。
いつのまにかその力のこもった利き手に(ネコ手)金属バット(でじこプリント入り、定価3924円【さんきゅーにょ】)が握られていた。
ぶっ飛ばすつもりらしい。
こういうのを世間ではやつ当たりという。
いや、既にやつ当たりを越えている。
ただのストレスはっさんだろう。
目が妖しくきらめく(キュピーン)でじこ。
マジだった。
体の後ろまで振りかぶる。
「これは正当な制裁にょ……安らかに眠るといいにょ………」
決めゼリフをいいながらねらいを定める。
ちなみに今の世の中、どんな理由があろうと正当な制裁なんぞ個人では与えられない。
こんな風にバットで奇襲をかけると、逆に国家機関から正当な(ほんとに正当かはノータッチ)制裁をくわえられてしまうのでばれない様にしなくてはならない。
ばれなきゃOKってなもんみたいである。(仮定)
「ふっふっふ………死ぬに……」
(ジリ…)ビッシ!!
「っにょぉ〜〜〜〜〜っ!?」
大きく吹っ飛ばされるでじこ。
バットはあさっての方向に飛んでいった。
「な、な〜に〜が〜〜お〜こ〜っ〜た〜にょ〜〜???」
おしりをさすりながら起きあがるでじこ。
目の前にはもうげまの姿は無かった。
「ど…どこにいったにょ?」
ぐるぐる頭を振り、げまをさがす。
「いたにょ!」
遠く離れたところに、うわうわと浮かぶ(爆睡中)げまをみつけた。
「や、やるにょ……まさかでじこの殺気を感じとっていち早く脱出したのかにょ…」
うわうわと浮かぶ物体(爆睡中)に恐怖をおぼえるでじこだった。
「おまえなにしてるにゅ」
ふいに背後から声をかけられる。
声のするほうに振り向くと、さきほどまで眠っていたぷちこが立っていた。
「おわっ、ぷちこも起きたのかにょっ」
「あれだけでかい音がしてればだれだっておきるにゅ」
まだ眠い顔をしたまま、目をこすりこすり答えるぷちこ。
語尾になんとなく青筋マークを感じるでじこだった。
「そ、そうだにょ。たいへんなんだにょ、じつはでじこの目覚ましが止められてたにょ!だからたいへんなことになってしまったにょ!」
切実に一生懸命訴えるでじこ。
話題を変えたのはばればれだった。
そんなでじこに一言、ぷちこはいった。
「おまえ、おねぼうしたのかにゅ」
が〜ん!
4トントラックで引かれたぐらいの衝撃が走るでじこ。
ひたいからはおおつぶの汗が流れ落ちている。
「ち…ちがうにょちがうにょっ!!でじこはおねぼうしたんじゃないにょっ!今日は元旦の準備をするためにわざわざいつもよりもちょっと早く目覚ましかけたんだにょっ!!
それなのに目覚ましがならなかったんだにょっ。でじこは被害者にょっ!無実なんだにょ〜〜っ!!」
うろたえる、とはこういう行動のことを言うのだろう。
意味不明な動作をしながらいっぱいしゃべるでじこ。
そこで、一つの事実にきがついた。
「あ〜っ、なに言ってるにょ!ぷちこも今ごろ起きてきているにょっ!自分の方がでじこよりもっとだめだめなんだにょっ!!」
びっし、とぷちこに指をさしながら言うでじこ。
さっきまでの行動で、今のでじこの行為は全然かっこよくなかった。
そしてぷちこは一言。
「ぷちこはこの時間に目覚ましをセットしたんだにゅ。いくらおまえでもこの時間までにはお正月の準備はおわってるとおもったからだにゅ」
ヒュオォォォ〜〜
冷たい空気がながれていた。
(さ…さむいにょ……心がさむいにょ……ああ……ねちゃだめにょ……ねむったら助からないにょ……あったかい…あったかいモノが…欲しいにょ……)
放心状態のまま固まっているでじこ。
まるであるぷす山脈の上の方ですんごくたくさんの風と雪に襲われているかのような心境だった。
(ああ…分かるにょ……いまなら理解できるにょ………雪山にヘリでわざわざ下着を届けに来るんだったら、そのまま助ければいいと思っていたけど……下着が欲しい時もあるにょ……あるん……だ……にょ……)
・・・・・。
「っとぉ!自分の世界にはいるのははこれぐらいにしとくにょ!今はそんなひまなんてないんだにょっ」
復活。
と、いうか気が済んだらしい。
いっぱいいっぱいとも表現する事ができる。
とにかく、1人ぐんぜしーきゅー○ごっこは幕を閉じることとなった。
「おまえ、またおバカなこと考えていたのかにゅ」
ぷちこのさりげないツッコミ。
しか〜っし!
でじこはぜんぜん気にしていなかった。
「ふっふっふ……もう、さっきまでのでじことはちょっとちがうにょ!目的の為ならどんな犠牲もお〜るOKな冷徹なマシンに生まれ変わったんだにょっ!!」
そう、その瞳はまるで真っ赤に燃えるこの手のように、熱くとどろいていたと言う。(ぷちこ談)
「とにか〜っく!うさだが来る前におおそーじを終わらせておかないといかんにょっ!あいつのコトだからきっと『あ〜らでじこったら、掃除の1つもできないのねぇ。えっ、なんですって?ほほ〜ほっほっほ、寝坊したのっ?信じられないわ〜。やっぱりこのゲーマーズのアイドルはラ・ビ・アン・ローズしかいないようねぇ♪』とかなんとか……っくぅ、でじこのプライド的に許せないにょ〜〜っ!!!」
ぐるーん、とでじこの頭が動く。
黄色いうわうわと浮かぶ物体の方に。
「まずは……あのしあわせ街道まっしぐらなヤツに地獄の淵をみせてやるにょ……」
気配をコロして歩み寄ろうとするでじこ。
その利きネコハンドにはどこから取り出したのか、でっかい金槌(!?)がにぎられていた。
バットでも大差はないが、これならある意味ホントにその『ふち』に強制送還することが可能だろう。
むんずっ
うわうわと浮かぶ黄色い物体に近づいていたでじこの服に、圧力がかかった。
「な・・・なんだにょ。なんか意見でもあるのかにょ?無駄にょ!このでじこの行動は確かに今は悪かもしれんにょ。だがきっと時の流れの中で正義だったということになるにょっ!今は心をオニにしてやらなきゃいかんのだにょ。それが英雄にもたらされた辛く厳しい試練なんだにょっ!!」
すっごいテンション、すっごいノリ。
ただ、さすがはぷちこ。
そんなでじこのテンションにもまったく動じていない。
でじこのスカートをにぎったまま静か〜にたたずんでいた。
「や・・・やだにょ。突っ込んでくれないとでじこ、なんかとってもおバカなヤツに見えちゃうにょ。は、はずかしぃにょ〜……」
「にゅ。」
照れるでじこの目前に、すっ、となにかを突き出すぷちこ。
それは可愛いトラの形をした時計だった。
ぷちこ愛用のものである。
「……?
これがどうかしたのかにょ?」
「さっき言い忘れてたにゅ。ぷちこの時計も鳴らなかったんだにゅ。止まってるにゅ」
ぷちこの時計は、確かにちょっと前の時間にセットしてある。
「……ホントだにょ。ここまで来るとちょっとおかしすぎるにょ。一体なんでだにょ」
考える。
一生懸命考える。
チッチッチッ・・・・・・
「うが〜〜っ、わからんにょ〜!よくよく考えてみたらそんなもんでじこが知ってるわけないんだにょっ!」
じたばた足踏みするでじこ。
時間はそろっとやばげなコトになっていた。
「ぷちこっ。とりあえず済んでしまった事はどうしようもないにょっ。とりあえずとっととげまをたたき起こしてかたずけをしてしまうにょ。ほんとに間に合わなくなってしまうにょ」
「にゅ」
でじことぷちこは、目覚ましのことをひとまず置いておく事にし、お店の大掃除を開始する事にした。
それなりに広いフロアである。
ある程度の時間は見ておかないといけない。
今からやれば、3人がかりでぎりぎりぐらいだろう。
「とにかくげまを起こすにょ。ぷちこ、目覚まし鳴らしてみるにょ」
チキチキチキチキ・・・
ぷちこの目覚し時計は昔ながらの目覚し時計。
時間をセットする針は左回りにしか回らない。
だから、1回セッティングをミスると、もう1回回してこなければならない仕様だった。
「セットできたにゅ」
ずいっ、とでじこに目覚し時計を渡す。
「さて。これでとりあえずやってみるにょ」
とらの頭についているボタンに手をのばしつつ、でじこはしゃべる。
「でもぷちこ。こんなことしないでも直に起こした方が(ぷちっ←押した音 ジリ…←目覚ましの音 ビッシ!!←??)・ ・ ・ ・。」
何と言うか。
すごい・・・というのかなんというのか。
びっくりするコトになっていた。
現にでじこは驚いて声もでない。
ぷちこは黙ってそちらを見ている。
でじこの両手の中の目覚し時計だ。
いや。
正確には目覚し時計を見ている訳じゃない。
目覚し時計のボタンに伸びている1本の手(?)をだ。
そしてその手の持ち主である黄色い物体を。
うわうわと浮いてる。
爆睡中。
まるでテレポート(しゅんかんいどう)をしてきたかのようなスピード、正確さで、ぷちこの目覚ましを打ち叩いていた。
・・・寝たまま。
説明するまでもないであろうが、でじこの時計もぷちこの時計も止めたのはコイツ。
鳴ったと同時に闇に葬ってきたのである。
さて、あまりに唐突に起こった出来事に、思考回路が麻痺していたでじこ。
だいぶ理解できて来ていた。
目の前に浮いてる物体、そこから伸びてる手、その手が置いてある場所、突然起こった事実、そして、先程吹っ飛ばされた事の本当の理由。
その全てを集約すると。
出る結論は1つである。
「おまえかぁっ!!!!」
ムピーッ
「ぎょぎょぎゃぎゃぁ〜〜〜〜〜っ」
哀れ、合唱げま。
1年の締めくくりに生死の境をさまよったと言う。
――――――エピローグ・・・。
1年間お世話になった店の中を、一生懸命走り回る、走り回る。
それぞれの想いを抱きつつ、お店の中を片付ける、片付ける。
ぷちこもげまも、そしてでじこも。
一生懸命片付ける、キレイにする。
来年も再来年もその次もその次も。
ここのお店でこの場所で、みんなで楽しく過ごせるように。
いつまでもいつまでも、みんな一緒で居れますように。
ずっとずっと楽しい日々が続きますように楽しい日々でありますように。
・・・幸せな年になりますように。
「うさだ〜、よーいはいいかにょ〜〜♪」
「き〜〜っ、うさだって言うんじゃないわよ〜(怒)」
「ほっほっほ、うさだはうさだだにょ〜♪」
「おまえたち、どっちもあほだにゅ」
「なんですとっ!?」×2
「にゅ」
「ちょっと、挨拶ぐらいきちんとやらないとマズイげま」
「そ、そうだにょ。とにかくなんか引っかかるもんが残ったがにょ、そろっといくにょ♪」
「新年、明けましておめでとうございますっ♪」
その日、そのお店は確かに楽しいお店であったという。