俺とけろぴー  第四話


  • 〜いざ勝負!!〜

     

     

    「ごめんね、祐一」

     

     すまなそうな表情で名雪が謝ってくる。

     

    「仕方ねぇよ」

     

     あくまで俺は平気だと言わんばかりの口調で答えた。

     今日は久しぶりに百花屋でイチゴサンデーでも食べていこうと約束してたんだが、

     陸上部の集まりが急に入った為名雪が来れなくなってしまったのだ。

     

    「埋め合わせはするから」

    「ああ」

    「じゃあ、もう行くね」

     

     そう言って名雪は教室を出ていった。

     1人取り残された俺は溜め息混じりで教室を出て行こうとした。

     

    「相沢」

    「うおっ?!」

     

     いつの間にか北川が隣りにいた。

     

    「共に帰ろう」

    「あ…ああ……」

     

     名雪との約束もおじゃんになった事だし北川とでも帰ることにした。

     

     

     

    「なるほど、それで不幸を一身に背負った顔をしていたのか」

     

     帰り道を行きながら北川が言う。

     どうやら俺の事を気にしてくれてたらしい。

     

    「くそ〜、今日こそは名雪と2人っきりになれると思ったのに…」

    「家は一緒じゃないか」

    「それがなかなか難しいんだよ」

    「何だ、邪魔でも入るのか?」

    「まあな」

     

     頭にかえるが浮かぶ。

     

     あいつさえいなければああああああああああああっっ!!!!!!!

     

    「あっ、祐一さんじゃないですかー」

     

     突然、名を呼ばれる。

     見ると商店街の入り口付近に見なれた顔があった。

     

     

    「おっ、佐祐理さんか」

    「あははー、久しぶりですー」

    「大学の帰りか?」

    「そうですよー」

    「大学、大変そうだな」

    「そうでもないですよー、舞も一緒だから楽しいですよー」

    「そういや舞は一緒じゃないのか?」

    「……祐一」

     

     言った途端、声がする。

     

    「おうっ?!お前、どっから出てきたんだっ」

    「…最初からいた」

    「……全然気付かなかった」

    「…気配、消してたから」

     

     どうやら相変わらずのようである。

     と、舞が手に持っているものに目がいく。

     

    「舞、お前何で木刀なんか持ってんだ?」

    「あははー、舞は剣道サークルに入ってるんだよねー」

    「まっ、まじかっ?!」

    「…まじ」

    「お前の相手が務まるヤツがいるとはな…」

    「…今、相手がいない」

    「えっ?」

    「…この前、果たし状を書いて勝負したらみんな逃げていった」

    「……」

     

     何はともあれ平和にやっているようだ。

     そしてふと頭に閃く。

     

    「舞、今相手がいないと言ったな?」

     こくっ。

    「じゃあ、その相手を俺が用意してやる」

    「…ほんと?」

    「ああ、今夜学校の近くの神社に来てくれ」

    「…わかった」

    「わあ、よかったねー、舞」

     

     佐祐理さんは我が事のように喜んでいる。

     楽しげな2人を見送ってから俺は歩き出す。

     

     

     

    「待て、相沢」

     

     後ろを向くと目に涙を溜めた北川がいた。

     

    「おっ北川、どうした?」

     

     

    「相沢…俺を無視しないでくれ……」

     

     そういや話に熱中しすぎてこいつの存在をすっかり忘れていた。

     北川は悩ましげな目つきで俺を見ると言った。

     

    「相沢、今回の事は水に流そう」

    「あっ、ああ……」

    「その代わり、彼女を紹介しろ」

    「…はっ?」

    「さっきのおなごだ」

    「佐祐理さんか?」

    「違う、木刀を持っていたおなごだ」

    「まっ、舞をか?!」

    「そうだ」

    「や、やめといた方がいいぞ…」

    「なぜだ、まさかっ!!相沢、きさま水瀬という恋人がいながら彼女にも手を出そうとっ!!!」

    「ちっ、違う!勘違いするな!!」

    「うおおおおおおっ、紹介しろ紹介しろ紹介しろーーーーーーーーーっっ!!!!!」

     

     狂舞している北川を取り押さえながら俺はしぶしぶ承諾した。

     そしていつか赴いた雑貨屋である物を買うと俺達はそれぞれの家に帰った。

     

     

     

    「ほんとに効くのか?これ…」

     

     目の前には怪しげな小瓶。

     ラベルには『クロロホルム』と書かれている。

     

    「とりあえず試してみるか…」

     

     ティッシュに数滴染みこませると自分の鼻に近づける。

     

     

    「………」

     

     

    「………」

     

     

    「………」

     

     

     

    「………はっ…!!お、俺はいったい…」

     

     どうやら効果は確かなようだ。

     綺麗な花畑と川まで見れた。

     

    「……よしっ…これなら…」

     

     再び新しいティッシュに液体を充分含ませると俺は『なゆきの部屋』に向かう。

     今は5時、名雪はまだのはずだ。

     扉を開けて中に入る。

     ベッドの上にはいつものエセかえるがちょこんと座っている。

     

    「何か用か、祐一」

     

     名雪でない事を確認するとけろぴーは人間モードに切り代わる。

     

    「ああ、じつはな…」

     

     そう呟くと俺は音速でけろぴーの体を掴む。

     

    「なっ、何やっ!!何すんねんっ!!!!」

    「うるさいっ!!大人しくお縄を頂戴しろっ!!!」

    「な、何か前にもなかったか?!この展開っ!!!!」

    「気にするなっ!!」

     

     そう言ってクロロホルムを染みこませたティッシュを押し当てる。

     

    「ふっ?!ふぐぐぅっ……ぐーーー……」

    「一応効いたな…」

     

     安らかな寝顔のけろぴーを掴みながら俺は部屋を出た。

     

     

     

    (夜の神社)

     

    「……」

     

    「………」

     

    「…………」

     

    「……はっ…」

     

     気付くとわいは木の幹にもたれかかっていた。

     どうやらいつのまにか外にいるみたいや、祐一の野郎……。

     

    「こんちくしょう…何処や、ここは……」

     

     上を見上げると月がある。

     こんな夜はなぜか叫びたい気分になるんや。

     喉元を膨らまし声をあげようとすると……。

     

    「…気付いた」

     

     目の前には女、名雪やない。

     右手に木刀を持っている、怪しい事この上ない女や。

     

    「…勝負」

     

     女は呟くと疾風の如くこちらに駆け寄って空を薙いでくる。

     

     ブンッ!!!!

     

     わいは間一髪でかえる飛びを決めると1m程後方に下がった。

     

    「なっ、何すんねんっ!!!!」

    「…避けた」

    「おのれは何やねんっ!!いたいけなぬいぐるみをいじめて楽しいんかいっ!!!」

    「…逃がさない」

    「おっ、おいっ、ちょっと待て、話せばわかるかもしれんって…ギャーーーーースッ!!!!」

     

     

     

    (水瀬家)

     

    「ゆ、祐一、けろぴ〜知らないっ?!」

    「んっ?知らねーぞ」

    「部屋にいないんだよ〜!」

    「旅にでも出たんじゃないか」

    「祐一、けろぴ〜はぬいぐるみだよ〜!」

    「そういやそうだったな」

     

    『けろぴ〜、どこ〜』と言う名雪を横目に一階へ降りる。

     

     

     どーん…………。

     

    「??何だ?花火でもやってるのか?」

     

     

     どおおおん………。

     

    「……」

     

     

     どおおおおおおおおおおおんんんっっっ!!!

     

    「…何か近づいてきてる気が……」

     

     

     どどどおおおおおおおおおおおおおおおんんんんんんんっっっ!!!!!!!!

     

    「!!」

     

     突然、ドアがすごい勢いで開いた。

     俺の体に何かがぶつかる。

     

    「なっ、何だ、一体…!」

     

     玄関前にはかえるが転がっていた。

     

    「け、けろぴー!!」

     

     むくっと起き上がる。

     

    「祐一……おのれはわいを殺す気かーーーーーーーーーーっ!!!!!」

     

     言いながら俺に向かって飛んできた。

     

     

    「祐一、すごい音したんだけど」

    「……!!」

     

     名雪が2階から降りてきた。

     けろぴーは反射的にぬいぐるみに切り代わる。

     

    「あっ、けろぴー!!」

     

     廊下に落ちているけろぴーを名雪が抱き上げる。

     

    「うわぁ、こんなに泥だらけになってるよ〜!」

    「……」

    「すぐに洗ってあげなきゃ!」

     

     そう言うと名雪は洗面所に向かった。

     

     

    「……祐一」

     

     玄関にはいつの間にか舞がいた。

     体じゅうに葉っぱとか泥がついている。

     

    「…あのかえるは?」

     

    「……!ちょ、ちょっと待ってろ!!」

     

     俺は駆け出すと洗面所のドアを勢いよく開けた。

     

    「……」

     

     けろぴーの姿はない。

     その奥の扉に目がいく。

     

    「ここかーーーーーーーーっ!!!」

     

     ばーーーんっ!!

     

    「……」

     

    「………」

     

     中には名雪とけろぴーが体を洗っている最中だった。

     

     名雪の裸体が俺の目に飛び込んでくる。

     

     

     

     

    「名雪…なゆき……なゆきいーーーーーーーー、ぼ、ぼ、ぼくぁあああっ!!!!」

     

    「い、いやーーーーーーーーー!!!!!!!!」

     

     

     ばきいっ!!!!ドコッ!!!!!ずこおおおおおんっ!!!!!!

     

     俺は華麗に玄関前まで吹っ飛ばされた。

     

     

    「…祐一、大丈夫?」

     

     

     舞が話しかけてくる。

     

     

    「……い…いい…パンチだった…ぜ………」

     

     ぱたっ。







    (5話に続いてます T_T)