放課後……。
本来なら開放感に満ち溢れたこの時を誰もが嬉々としているはずだ。
だが、俺はとてもそういう気分にはなれない。
机につっぷしながら俺は溜め息をついた。
こんなにも俺をブルーにさせる原因は第二の我が家、水瀬家にあった。
正確には名雪の部屋にいる大阪かえるだ。
この前の夜、名雪の部屋で寝たのはいいが何時の間にか俺と名雪の間に
入ってきたヤツに楽しい夜のひとときを邪魔されたのだ。
「どうしたんだ、相沢」
叩かれた背中越しに目を向けると我が心の友、北川が笑顔で話しかけてきた。
「やけに暗いじゃないか」
「色々あるんだよ」
「ふ〜ん…まあいいや、一緒に帰ろうぜ」
名雪は部活だし別に断る理由もないので俺は北川と帰ることにした。
「相沢、何か悩み事でもあるのか」
商店街の屋台で買ったたいやきを頬張りながら聞いてくる。
さすが心の友、俺の内に秘めたるブルーな気持ちを察したようだ。
「わかるか?」
「なめるな、どのくらいの付き合いになると思う」
「…半年も経ってないぞ……」
「そんなことはこの際、関係ない。俺とお前は生まれる前からお互いの心境を
交し合ってきた仲ということだ」
いまいち理屈はわからないがなぜか納得する。
北川のすごいところは常人には理解しがたい理屈で全てを丸め込むところにある。
それが俺をここまで信頼させているのかもしれない。
「さあ、お前の思いの丈をこの俺にぶつけてみろ」
一般の人が聞くとかなり危ないセリフを平気で口にする。
これも北川の毒舌が成せる技だ。
「ああ、実はな……」
俺はことのあらましを北川に告げた。
ただし、ヤツのことは伏せておいた。
「……なるほど」
北川は話を聞き終わると片足を塀の上に乗っけて考える人になっていた。
時折、女子高生の非難がましい声が聞こえてくるが北川は気にしてない。
つーか、やはり俺も北川と同等に見られているんだろうな…、何とも複雑な気分だ。
「よし」
北川は1人納得すると眼をキラリと光らせて俺を見る。
まるで二流漫画だ。
「つまり、相沢と水瀬の邪魔をするヤツがいるんだな」
「お、おう」
「だったら、お前がそいつに近い存在、もしくはそいつになればいい」
「何かよくわからんがわかった」
「よしっ、じゃあそいつになりきるための準備をするぞ」
「おう」
北川は俺の案内で商店街脇の雑貨屋に入る。
中には様々なブツが置かれており雑貨屋というよりは鍛冶屋だ。
店の奥で竜殺しの剣を作っているゴ〇―に面と向かう。
「ゴ〇―、カエルスーツをくれ」
「普通のやつとマリ夫のやつとどっちがいい」
「じゃ、マリ夫の方で…」
ゆらりと立ち上がるとゴ〇―は店奥に消えていった。
「相沢…」
「何だ」
「……やるな」
何がやるのかわからなかったがとりあえず俺はにやりと返しておいた。
ゴ〇―が戻ってきて代金を支払うと俺達は店を出た。
「がんばれよ、相沢。そのスーツで水瀬はお前のものだ」
そう言って北川は白い砂浜を夕日に向かって駆けていった。
水瀬家に戻るとさっそく作戦を実行に移す。
まずはヤツをどうにかせねば……。
階段を駆け上がり自分の部屋に荷物を放り投げると俺は名雪の部屋に入る。
この時間だとまだ帰ってきてない筈だ。
「おい」
ベッドに乗っているヤツに話しかける。
「何や」
けろぴーは短い足で立ちあがると俺を見据えてきた。
「実はな」
そう言って俺は素早くけろぴーを縛り上げた。
「なっ?!何すんねんっ!!!」
ついでにさるぐつわもつけておく。
「ンンンンンッッ!!!!」
暴れるけろぴーを片手で抱えあげると自室のクローゼットに押し込んでやった。
「ただいま〜」
階下から名雪の声が聞こえた。
俺は急いでマリ夫仕様のスーツを身に纏うとベランダづたいに名雪の部屋に入る。
とん、とん、とん……。
軽やかに階段を駆けながら来る名雪をベッドの上で待つ。
がちゃ……。
「ただいま〜、けろ……」
名雪はドアノブを掴んだまま固まった。
「やあ」
俺は顔面が引きつるぐらいの笑顔で寝転びながら片手を上げる。
「ゆ、ゆういち……けろぴーは……?」
「今日から俺が名雪のけろぴーだ」
にこやかに笑う俺を見ながら名雪が一言……
「祐一の目、濁ってる……」