俺とけろぴー  第五話

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    〜北川、散る〜

     

     

     ふらつく足取りで校門をくぐった。

     昨日の傷がずきずきと痛む。

     名雪は先に学校へ行ってしまった。

     

    「やっぱり怒ってるよな…」

     

     俺を避ける一心で早起きしたんだろう。

     まあ仕方のない事かもしれない。

     

    「相沢」

     

     下駄箱で上履きを取ろうとしているところで北川が隣りにきた。

     

    「相沢、昨日の事なんだが…」

     

     会うなりいきなり本題を持ちかけてくる。

     昨日の事とはもちろん舞を紹介することだ。

     

    「俺的には近いうちに紹介してくれるのならいつでもいいんだが…」

    「安心しろ、既に手は打ってある。今日にでもいけるぞ」

    「なっ、なにいっ?!そ、それは本当かっ、相沢!!!!」

    「ああ、だから期待しとけ。詳細は帰りに俺の家に寄ってくれ。その時話す」

    「う、ううっ…うおおおおおおっ!!心の友よーーーーっ!!!!」

     

     ボディーアタックをかまそうとする北川を軽やかに避けて俺は教室に向かった。

     

     いつものように席につくと名雪に話しかける。

     

    「よう、今日は先に行ったんだな」

     

     しかし名雪は見向きもしない。

     やはり怒っている…。

     

    (…自業自得か……)

     

     

     その後の俺はぼーっとしていた。

     ろくに授業も聞かないまま放課後を迎え、俺は北川と共に帰路についた。

     

     

     

     秋子さんから渡されたお茶菓子を持って自室に入る。

     

    「何だ、結構きれいにしてるな」

     

     北川が感嘆の息を漏らす。

     

    「まあ、適当に座ってくれ」

    「おう」

     

     

     とりあえず北川に紹介することになったんだが、どうして今日なのか説明しよう。

     昨日の一連の騒動のあと、舞が帰ろうとする時に俺が話しておいたからだ。

     まあ、これであいつにも春らしい春が来たということだ。

     

     最もちょっと普通の紹介の仕方じゃないが……

     一応、名前とか趣味くらい北川でも聞き出せるチャンスくらい…。

     

     

     ……ないかもしれない…。

     

     

     ま、いっか。

     

     

     

    「そういう事で北川」

    「どういう事だ」

    「まあ、とりあえずコレを着てみてくれ」

     

     そう言って俺は部屋の隅っこに封印していたブツを渡す。

     

    「こっ、これは……第二話に出てきた『カエルスーツ』じゃないか……」

    「そうだ」

    「何で俺がこれを着なきゃならんのだ」

    「舞、たっての希望だ」

    「着よう」

     

     即答すると北川はおもむろにスーツを着用する。

     

    「…相沢」

    「何だ、サイズが小さかったか?」

    「妙に埃っぽいんだが…」

    「二話以降出る幕なかったからなぁ」

    「それに凶悪に汗臭いんだが…」

    「一回それで腹筋運動してたからなぁ」

    「……」

    「ま、とりあえずこれも持ってけ」

    「何だ…木刀じゃないか、こんなものどうするんだ?」

    「一応夜に会う予定だからな、護身用だ」

    「ふむ、まあ野党が押しかけてくるかもしれんしな。持っていこう」

     

     それはない、代わりに別のやつに襲われるハメになると思う。

     その後つまらん話に講じて北川はそのままの格好で家に帰った。

     

     

     

    「ふー、いい湯だった」

     

     心身のリフレッシュをすると居間に行く。

     

    「あうー、これ面白いよー」

    「にゃにゃ〜ん♪」

     

     ソファーに座りながら真琴とぴろがテレビを見ていた。

     

    「真琴、名雪は?」

    「名雪お姉ちゃんならもう寝たよ」

    「…そうか」

     

     結局のところ今日は一回も話せなかったな。

     明日頑張ろ……。

     

    「祐一さん、冷たいものでも用意しましょうか?」

     

     キッチンから秋子さんが顔を出して聞いてくる。

     

    「いえ、今日はもう寝ます」

     

     真琴に早く寝るように言ってから俺は居間を出た。

     玄関前まで来ると……。

     

     

     どーん…………。

     

     

     ……花火か?

     

     

     どおおおん………。

     

     

     …最近多いよな。

     

     

     どおおおおおおおおおおおんんんっっっ!!!

     

     

     近づいてきてる?

     

     

     どどどおおおおおおおおおおおおおおおんんんんんんんっっっ!!!!!!!!

     

     

    「!!」

     

     

     次の瞬間、直したばかりのドアが再びぶち破られる。

     

    「あいざわああああああああああああああっ!!!!」

     

     北川だった。

     全身ぼろぼろの格好だ。

     でっかいばんそうこうまでついてる。

     

    「どうしたんだ、北川?」

    「ど、ど、どういう事だっ!!あれはああああっ!!!!」

     

     木刀を振り回しながら叫ぶ。

     

    「話がよく見えないんだが」

    「あのおなごのことだあっ!!!」

    「舞がどうかしたのか??」

    「待ち合わせ場所に着くなりいきなり木刀を振り回してきたぞっ!!!」

    「あいつ、剣道サークル入ってるからなぁ」

    「そんなことは関係ないっ!!!何で俺がこんな目に……!!!」

     

     北川の声が詰まる。

     

    「…かえる……逃がさない」

     

     玄関前に舞の姿があった。

     

    「……ぎいいいやああああああああああああああああああああっ!!!!!!」

    「…待て、かえる」

     

     家の中に逃げた北川を舞が追いかけていった。

     

    「祐一さん、お友達ですか?」

     

     秋子さんが騒動を聞きつけて居間から出てきた。

     

    「いや、まあ、何と言うか……」

     

     どかっ、ばきいっ、どごっ、どごっ、どかあああああああああんっ!!!!

     

    「ぐうわああああああああああああああああああっ!!!!!!」

     

     北川の断末魔の叫びが聞こえてきた。

     

    「……」

    「賑やかですね」

     

     秋子さんはこんな時でもおっとりとしている。

     

     やがて舞がこちらに来た。

     

    「…祐一」

     

    「……な、何だ?」

     

    「…今度はもっと手応えのあるやつがいい」

     

     それだけ言うとぶち破られた玄関から出ていった。

     

     

     

     一方、北川はというと……

     

     

     全治2週間の怪我を負ったらしい。

     

     

    「何で俺がこんな目にいいいいいいいいっ!!!!!!」







    (続けばいいなあ)