30000ヒット看過謝罪(笑)加えて旧七夕ネタSS
 
あるごる ぷれぜんつ
 
<願わないごと>
 
 
「う、うひゃぁ!」 
 チャイムに呼ばれてドアを空けたとたん、出入り口を埋め尽くす緑の塊。
 俺の奇声に、佐祐理さんにひけをとらない料理の腕を振るっていた舞が、出刃を持ったまま駆けつけてきた。
 俺が今いるのは、舞と佐祐理さんの暮らすアパート。
 舞との約束を、半分だけ叶えている場所だ.
 
 
 舞との約束、すぐに叶えて3人で暮らしたかったが、現実はそこまで甘くない。
 何を言ったところで、俺はまだ学生のガキだという事実は代わらない。愛で我が道を歩むには、まだまだ未熟者だ。
 まず高校を卒業するまでは同居はダメだと、俺は誓って、二人にも納得してもらったのだ。
 その代わり、俺は金曜夜から日曜までは『通い婚』。要は週末だけは、二人のアパートに上がり込み続けている。
 夏休みになりさえすればずっと一緒にいられる。それまでは我慢だ。
「誰?」
 ちなみに、舞の格好はノースリーブのシャツにカットジーンズ。
 料理をさせてるんだから裸エプロンだろうがっ!いう声もあるだろう。
 ……実はもうやった。
 純な舞をそんな目にあわせるのかという良心の訴えをこらえて、この前、実行した。 
 何も知らない舞は素直にしたがってくれた。
 心ゆくまで漢の浪漫を堪能したまではよかったのだが、運悪くその時訪問販売が来てしまったのだ。
 舞の奴、恥じることなくその格好で玄関に出てしまったのだ。
 販売員は、鼻血出して悶絶。そこに佐祐理さんが帰って来てしまって、
 その夜、舞曰く「実は腕相撲で勝ったことが無い」夜叉モード佐祐理さんの恐ろしさを骨の髄まで叩きこまれることと相成った。
 それ以来、怖くて言い出せない。
 まぁ舞なら何を着せたって、世の野郎という野郎に劣情を抱かせてしまうんだが。
「舞、そんな物騒なもの持ち出さないで下さいよ〜」
 緑の向こうから内容とは裏腹の楽しそうな声が聞こえてきた。
「佐祐理さんかよ、どうしたんだよこれは」
「今日は七夕ですから」
 七夕。
 乞巧奠という中国の祭りを起源とし、奈良時代から伝わる由緒正しい神事。
 佐祐理さんは、短冊を吊るすための笹を持ってきたのか。
「佐祐理さん、にしてもちょっと大きすぎるんじゃないか…」
「あははー、どうしても願いを叶えてほしくて、気づいたらこんなに大きくなっちゃいました」
 パプア島のイッポンダケも真っ青になるようなでかい竹には、これまたどこぞの七夕祭りで下げられるようなばかでかい飾りがこれでもかとついている。
 舞踏会といい、春の花見といい、間違いない。知ってたけど改めて確認。
 佐祐理さんはお祭り好きだ。
 しかも、かなり気合の入った。
 
 
 
 
「さてと,願いをつるさないと…」
「祐一さんは、何をお願いするんですか?」
「なんだよそっちのは教えないのかよ」
「といいながら手を伸ばさないで、あっ!」 
「えっと何々…『祐一さんが、もう少しだけ私の『相手』をしてくれますように』?」  
「………!」
 ……冷房は特に入れてないよな。
 場が妙に冷えてきた気がする。
「あははー」
「………佐祐理」
「あははー」
「佐祐理さん?」
「あははははははははは〜〜〜〜」
 ……壊れた振りをしてるようだ。
「そう言う祐一さんのは、どんなのですか」
「俺の? 大した願いじゃないよ」
「ほんとですか?」
「なんだよ佐祐理さん、らしくないな」
「………」
「見せてくださいよ」 
「嫌だ」
「見せてくださいよ〜」
「人に見せたら叶わないだろ」
「祐一さん、人の見ておいてずるいです、佐祐理怒りますよ」
「嫌だって」
「………」
「わ、待て舞、別にお前を無視したわけじゃないぞ!」
 いつのまにか悲しげな顔になって、独りベランダへ出ていこうとする舞を、俺達は慌てて引きとめたのだった。
 
 
 
 
「ほら、舞もなんか書けよ」
「………嫌」
「ほえ、何でですか」
「普段はろくにお願い聞いてくれない神様に頼める、数少ないチャンスだぞ」
「………嫌」
 俺たちの説得にも舞は、頑として書く気が無いようだ。
「舞、七夕嫌いか?」
 俺は方向を変えた。
 これなら舞は必ず……
「………嫌」
 3度目の返答。
 予想は裏切られた。
 それに続くはずの『…じゃない』は出てこなかった。
「どうしてだよ」
「………ずっと子供の頃にも七夕はやった」
「!」 
 佐祐理さんは困惑したままだが、俺はその理由にピンと来た。
 
 
 
 
「………毎年、七夕には母さんの病気が治るようにお願いした。でも、叶わなかった」
 舞と記憶を共有したときに見て、俺は知っている。
 舞の母親は,ずっと難病に侵されていた。
 何度願っても、舞が『奇跡』を起こすまで、それが治ることはなかった。
「………ひどい目にあわせないでと願ったときも、駄目だった」
 その『奇跡』のせいで、舞は塗炭の苦しみの日々を過ごすことになった。
 化け物親子と恐れられ、蔑まれ、居場所を見つけられず渡り歩く日々。
 誰も近づかない、孤独の日々。
「………祐一と出会うのも、かなりの時間がかかった」
 そして、ようやく出会った俺は去り、再会するまで、更に10年……。
 舞が、戦いながらもずっと祈っていたことは想像に難くない。
 そして、その間、神の救いなんてものは、何一つ舞には無かった。
「まい……」 
 佐祐理さんとの出会いさえ、あの日――舞にプレゼントを渡そうとしたあの日――には、悲劇の伏線でしかなかった。
「……」
 願うものはいつでも拒絶され、望まないものがあてがわれ続ける。
 舞にとっての神は頼りにならない存在、いや憎しみの対象でしかないのだろう。
 俺は部屋の片隅に目を移した。
 剣。
 舞の持っていたあの剣は、今も思い出の品として、ここに有る。
 それだけが、舞の頼れたもの。
「舞、悪かったな……おまえの気持ち、何も考えないで…」
「舞…」
 佐祐理さんはトンと押せば大泣きしてしまいそうな目だ。
 きっと去年も、おととしも舞と七夕をしたのだろう。舞の心の、ずっと奥に淀んでいた物を知らずに。
「……佐祐理さん、これ、片付けるか」
「祐一たちは願えばいい」
「んなこと、俺たちにはできないよ」
「………私は、待てないだけだから」
「「!?」」
「………神さまは、きっと忙しいんだと思う」
「は!?」
 笹に手を掛けていた俺は、葉ですぱっと手を切ってしまう。
「世界中の人がたった一日にお願いするから、毎年きっと大変だと思うから…」
 まさか舞。
「………私の願いが叶う順番が、後に回っているだけなんだと思う。待てるんだったら、願えばいい……」
 ……舞。
 なんていいやつなんだ、お前は。
 本当に純粋で、やさしくて、不器用で、素直で……。
 こんなにフォローしてもらっている神は、折り詰めの一つでも持って頭を下げに来るべきだと思う。
「……でも私は、叶うまで、やっぱり待ってられないから」
 
 
「………だから、神さまにお願いするくらいなら、祐一に頼む」 
 そう言い終えると,不意をついて舞は飛び込んで、
「! んっ……」
 キスしてきた。
 全くの不意打ちだったので、なすがままの俺。
「え、えっと、これですね、祐一さんのお願い。……、あははー!早速、ご利益(ごりやく)あったですねー」
 同時に竹の方角から、佐祐理さんの歓声が上がった。
(あぁっ! 見たのかぁっ!)
 舞とのキスを止めるわけにはいかないので、俺は身体で叫んだ。
「あははーっ、祐一さん現金ですねー」
「………?」
 
 
 
 
 俺の願い? 言わなくても分かるだろもう。
 いつも俺からだから、たまには積極的になってもらいたくて……
 
 
 
 
 
 
舞が、自分から俺にキスしてくれますように   相沢祐一
 
 
 
 
 
えんど