水瀬家の面々による
超初心者向けSS講座
第三話
推敲ってなんじゃらホイ?
「あぅ、第三話って……」
「二話からもう二年以上経過しているんですが秋子さん……」
「仕様です」
「そ、そうですか……」
さてさて、そういうわけで今日も今日とてお気楽極楽な水瀬家の面々、祐一くんの言葉通り随分とお久しぶりな気もしますが、仕様らしいですのでどうすることもできません。
「そうですね、それでは前回までのおさらいの意味も含め、あらすじ紹介と行きましょうか」
「はいはーい! 真琴が話すー!」
「じゃあお願いね真琴」
「りょーかい! えー、あーあー、本日は晴天なり本日は晴天なり」
「始めろよ早く」
「うっさいっ!」
「まぁまぁ、ほらほら真琴、読者さん待ってるよきっと」
「うー、わかった。それではっ!」
『俺と結婚してくれ、真琴』
『ゆ、祐一……』
『もう俺はお前しか見えない』
『そんな…… だめ、真琴は祐一の妹なのに……』
『愛さえあれば兄妹の垣根なんて関係ない! いやむしろ義理のイモウト望むところ!』
「カーット! カットカットカットカットカーーーット!」
「ワラキアのゲージ3必殺技?」
「黙れ名雪! そんなマニアックなネタは知らん!」
「なによイイトコなのにー!」
「黙れこのツインテール崩れ! それ全然あらすじじゃねぇだろうがっ!」
「エー」
「『エー』じゃねぇっ!」
「まぁまぁ、仕方がないよ祐一、真琴はまだお子さまだもの」
「お、お姉ちゃんヒドイ!」
「ここはお姉ちゃんのわたしがビシッと決めるよ」
「あらあら、じゃあ名雪にお願いするわね」
「えへへ、まかせてよお母さん。それでは、えー、こほん」
『わたしちょっと熱があるみたいなんだよ』
『そうかっ! 熱があるかっ!』
『ど、どうしたの祐一、急に大きな声出すとびっくりするよ』
『熱冷ましといえばこれだっ!』
『え、あの…… それってひょっとして……』
『さあ名雪、うつ伏せになって腰を上げろ、というか上げさす』
『ひゃぁ! や、やめてーー!』
「ってこの原稿はなにーーっ!」
「名雪、お前……」
「お姉ちゃん……」
「ち、ちがうのこれは……!」
「えろすぎる!」
「えっちすぎる!」
「陰謀だよー!」
えー、この人たちに任せておいたら話がさっぱり進みませんので、あらすじは前作前々作をお読み返しくださいということにさせていただきます。
「あらあら、困ったものね」
「あぅ、面目ない」
「とほほ…… 扱いがヒドイよわたしだけ……」
さてさて。
「みんなご苦労さま、なんとか書き終えたみたいね」
頬に手をあてたいつものファイティングポーズで、にっこり微笑む秋子さん。
そうです、遂に三人とも初めてのSSを書き上げることができたのです。
ちょっぴり誇らしげな三人。
「さてさっそくホームページに公開せねば!」
やる気満々の祐一くん、自分の書いたSSを早く読んでもらいたくて仕方がないといった様子です。
でもそんな祐一くんに、秋子さんはこう言いました。
「それはちょっと気が早いですよ、祐一さん」
「そうよ、まったく祐一は早いわねっ!」
「早いよ祐一、速射砲だよ」
「ええい、早い早い言うな! で、秋子さん、どうしてホームページに公開しちゃダメなんですか?」
不思議そうに祐一くん。
でも彼の言葉ももっともです。なにせ前回、公開をためらう真琴ちゃんを後押ししたのは他でもない秋子さんだったのですから。
祐一くんに早い早いと文句を言っていた二人も、ちょっぴり不思議そう。どうもこの姉妹、「早い」という単語に反応していただけで、秋子さんが何を言いたかったのかは分かってないみたいですね。
「公開しちゃダメなんてことはないですよ、皆に読んでもらってこそのSSですものね」
「え? じゃあなんで……」
「あなたたち、書きあがったSS、きちんと読み返した?」
そう笑顔で指摘され、うっ、と言葉に詰まる子供たち。どうも三人、早く読んでもらいたい一心でろくに読み返しもしないままに公開しようとしていたみたいですね。
「で、でもでも、わたし書き終えた後にいっかいだけ読み返したよ!」
「あっ、俺は書きながら読み返したりしてました!」
名雪ちゃんと祐一くんのその言葉に、たらーりと額に冷や汗の伝う真琴ちゃんです。やれやれ、真琴ちゃんはせっかちさんですからね。
そんな真琴ちゃんに微笑みながら「めっ!」という視線を投げて、秋子さんは子供たちにこう尋ねました。
「ねえあなたたち、初めてSSを書き上げた今の気分はどう?」
「え? う、うん! サイコー!」
「うんうん、すっごく興奮してるよ」
「早く読んでもらいたくて仕方がないよな」
「そうよね、その気持ちわかるわ」
「でも」と人差し指をピッと立てて秋子さん。
「そんなに興奮した状態で、しかもたったの一回だけ見直しで、果たして間違いに気付くものかしら。ねぇ名雪?」
「うっ……」
にっこり笑顔で尋ねられ、名雪ちゃんの額にも冷や汗がたらーり。
「祐一さんの場合は、そうね、ジグソーパズルかしら」
「ジグソーパズル?」
「個々の部品だけを見ていても、全体の絵柄はわからないでしょう?」
「ええそうですね……って、あっ!」
「そう、SSを同じに論ずるのは少し乱暴だけれど、私の言いたいことは分かりますよね?」
「は、はい、なんとなく」
「つまりは書いている途中途中で読み返していても、全体を通してみるとちぐはぐになってしまうということ」
「おっしゃるとおりです……」
うふふ、と微笑まれ、祐一くんも冷や汗たらーり。
さすがは秋子さんです。三人はしょんぼりしてしまいました。
「あらあら、そんながっかりしないで。読み返しをしっかりしておけば、それだけ完成度が上がっていいSSになるということなんだから」
「そ、そうですよね!」
「うんうん!」
「わたし頑張って読み返すよ!」
秋子さんのフォローに、祐一くんも真琴ちゃんも名雪ちゃんも、やる気が出てきたみたいです。水瀬家の子供たちはみんな前向きなのがいいところですね。
「読み返しておかしいところを直すことを『推敲』と言うのよ」
「すいこう?」
「そう、推敲。これはSSを書くのと同じくらい、いえそれ以上に大切なことなのよ」
「SSを書くよりも大切なんですか!?」
これには祐一くんだけでなく、真琴ちゃんも名雪ちゃんもびっくりです。まさかSSを書くというそれ自体よりも推敲が大事だなんて!
「そうです、推敲がしっかりとされていないSSは、読んだ人にどこかちぐはぐな印象を与えてしまうわ、それに誤字脱字」
「ううっ、誤字脱字はどうしてもやっちゃうんだよね」
「名雪もか、俺も気をつけて書いているつもりなんだが」
「実は真琴も……」
「人間だから、誰しも間違いはあるわ。書いているときに誤字脱字を100%無くすのは無理なの、推敲を繰り返しても見つけられなかったりするくらいだもの」
秋子さんのフォローに、ほっと胸をなでおろす三人。
でもすぐに真琴ちゃんが「あれ?」という顔をして質問です。
「お母さん、誤字脱字って推敲しても100%無くすのは難しいんだよね?」
「そうね」
「だったらそんなに頑張って推敲しても一緒じゃないかな?」
なるほど、真琴ちゃんの言うことにも一理あるような気がします。誤字脱字が誰しもやっちゃうミスなのであれば、そんなに目くじらを立てて無くそうとするのは無駄な努力かもしれませんね。
「いいえ真琴、これだけは覚えておいて」
ちょっぴり真剣な顔でそう言う秋子さんに、真琴ちゃんだけでなく祐一くんも名雪ちゃんも生唾ごっくん。
「誤字脱字というのはね、とても恥ずかしいことなの」
「え?」
「『誤字脱字は恥ずかしいこと』これは前提条件よ」
「あぅ、そんなに恥ずかしいことかな?」
「ホームページで公開すると、何十人何百人という人に読んでもらえるかもしれないのよ? そのときに誤字脱字があったら、恥ずかしいと思わない?」
「あぅ……」
「うーん、確かにそうですけど」と祐一くんはいまいち納得できていないみたいです。
「なんだか少し矛盾してませんか?」
「あら、そうかしら?」
「確かに『誤字脱字は恥ずかしいこと』ですね、それは俺もわかります。でも『誤字脱字って推敲しても100%無くすのは難しい』んですよね?」
「ええ、そうね」
「だったら結論としては、『誤字脱字があるのは仕方が無い』ということにやっぱりなりませんか?」
うんうん、と祐一くんの言葉に頷く名雪ちゃん真琴ちゃん姉妹。二人もどうやら祐一くんと同意見みたいですね。
そんな子供たちに秋子さんは、「ちょっとキツイ言い方かもしれないけれど、ごめんなさいね」と前置きしてから言いました。
「それはただの開き直りですよ」
その厳しい指摘に、またしても「うっ」と言葉を無くす三人。
「推敲しても誤字脱字が残る可能性があるから推敲しない、それは、どうせテスト勉強したって赤点なんだから勉強なんてしなくてもいいや、という考え方と同じじゃないかしら?」
「うっ……」
「あら祐一さん、顔色が悪いけれど大丈夫?」
「あ、あははは、ダイジョウブです……」
おやおや、祐一くんはお勉強があまり好きじゃないですからね。
そんな祐一くんに「今度の期末試験、頑張ってくださいね」とトドメをさしてから話をまとめる秋子さん。
「推敲しても誤字脱字を100%無くすことが難しいのであれば、よけいに推敲しなくちゃダメなのよ」
「うーん、確かにそうだね」
「真琴、バカだと思われるのイヤ」
「ううっ、頑張ります期末試験……」
どうやら誤字脱字に関してはみんな納得したみたいですね。
と、名雪ちゃんが何かに気付いたような顔をしてこう口にします。
「そういえばさっきお母さんこうも言ってたよね、『推敲がしっかりとされていないSSは、読んだ人にどこかちぐはぐな印象を与えてしまう』って」
「ええ、よく覚えてたわね名雪」
「これってどうすればいいのかな、誤字脱字みたいに簡単には直らないと思うんだけど」
なるほど、名雪ちゃんの言うことはもっともです。そもそも「どこかちぐはぐ」という表現自体が抽象的で、ややわかりづらいですね。
「ここで言う『どこかちぐはぐ』っていうのは、読んでいて「あれ?」と思ってしまうような表現だったり言い回しだったり、とにかく読んでいると「おかしいな?」と気になってしまうようなSSだと思ってね」
「うん」
「そうね、こればっかりは『慣れ』しかないかもしれないわ」
「えー、じゃあわたしたちみたいな超初心者はどうしようもないってこと?」
「あらあら、そうは言ってないわよ」
そうして秋子さんは、また人差し指を一本ピッと立てて言います。
「ここで言う『慣れ』というのは、書き慣れることよりもむしろ読み慣れることね」
「読み慣れる?」
「そう、市販の小説だったり、他の人の書いたSSだったり、新聞なんかもとても参考になるわよ」
「新聞、ですか」
「そうですよ祐一さん、新聞を読むことはとっても文章の勉強になるの、下手な文章技法の本を読むよりもよほどね」
「なるほどー」
腕を組んでうんうんと頷いている真琴ちゃんですが、彼女も新聞なんてテレビ欄とその裏面にある四コマ漫画しか読まないクチです。
「超初心者にとって上達への一番の近道はとにかく文章を読むことです」
「え? 書くことじゃないの?」
「そうね、名雪の言うとおり、書くことももちろん大事よ? でもそれ以上にまずは読むこと」
そこでちょっと考え、秋子さんはこんな例えを持ち出しました。
「洗面器からスプーンで水を汲み出すことを考えてみて」
「スプーンで水を? うわぁ、時間がかかりそうだね」
「そうね、スプーンで汲み出せる量なんてたかが知れているわ。この場合、水がSSの『面白さ』、スプーンはそのための『技術』だと思えばいいわ」
「じゃあ洗面器は?」
「SSを書くのに必要な『知識』ね」
「なるほど。たとえ時間をかけてスプーンで水をぜんぶ汲み出せたとしても、しょせんは洗面器ですから大した量にはならない、と」
「つまりは面白いSSにはならないってことだねお母さん」
「そう、そしてSSを書いて書いて、文章技術がアップする。例えるならスプーンが“ひしゃく”になった、これならどうかしら」
「ひしゃく?」
「ああ、柄杓よ。お墓参りの時などにお墓に水をかけるあれ」
「あーあー」
「あっ、そうか。柄杓になって一度に汲み出せる水の量は増えるけど……」
「所詮は洗面器、と」
「そう、汲み出せる水の量、つまりSSとしての面白さは変わらないの」
「汲み出すまでの時間が短縮できるってだけなんだね」
「じゃあ洗面器を大きくするにはどうしたら…… って、あっ、そうか!」
「はい、真琴の考えた通りよ、本を読めばいいの」
「わーい、せいかーい」
「本や新聞、とにかく活字に慣れ親しんでいくことによって入れ物の大きさはどんどん増えていくわ、洗面器からタライ、浴槽、さらには池になり、湖になり、海になる」
「うわぁ」
「もちろん『技術』も大事、いくら『知識』が膨大な海でもそれを汲み出す『技術』がスプーンだったら結局はいっしょですものね」
「なるほど、俺らのような超初心者が『技術』を磨きたいなら、まずはSSを書く」
「わたしたちみたいな超初心者が『知識』を身に付けたいなら、まずは本を読む」
「そういうことなんだよね、お母さん」
「はい、よくできました」
ええと、大変タメになるお話ではありますが、少々話が脱線してきております。
「あらあら、ごめんなさいね、推敲のお話だったわね」
「うん、でもわかったよ」
「俺らみたいな超初心者でも、本を読んでSSを書くのに必要な知識を増やせば、推敲は無駄にはならないってことですよね」
「はい、正解です」
「うーん、推敲って大事なんだねぇお姉ちゃん」
「そうだね、わたしたちもしっかり推敲しないとね」
「よしじゃあこれからさっそく推敲を……」
「書き上げてすぐだと間違いに気付きにくいから、一日くらい期間をおいて冷静になってからの推敲がお勧めですよ」
「うっ……」
「まったく祐一は(気が)早いわねっ!」
「速射砲だよ」
「ええい、そのネタはもういいっつーの!」
さてさて、いよいよ処女作となるSSを書き上げ、更には推敲という強力な武器を手に入れた我らが水瀬家の面々。
しかしまだまだこれからだ!
頑張れ祐一くん!
頑張れ名雪ちゃん!
頑張れ真琴ちゃん!
世界は君たちの作品を待ちわびている!! ……んじゃねーのー?
「うわっ、めっちゃ適当!」