「なんか半年近くほったらかしだったような……」

「うん、物凄く時間が経ったような気がするよ……」

「あぅ……」

 

「それは気のせいです」

 

 

 

 

水瀬家の面々による

超初心者向けSS講座

第二話

何を書いたらいいのかな??

 

 

 

 さてさて、今日も今日とてお気楽極楽の水瀬家の面々。

 前回、秋子さんに色々と基本的なことを教えてもらい、やる気満々でSS書きに乗り出した3人。

 はてさてどうなりましたことやら……。

 

 

「ねぇお母さん、ちょっと聞きたいんだけど」

「あら、何かしら名雪?」

 

 名雪ちゃん、ちょっともじもじしながら秋子さんに質問です。

 

「えっとね、その……」

 

 どうにももじもじ名雪ちゃん。

 でも意を決したように続けます。

 

「あのね、いざ書こうとしてパソコンの前に立っても、何を書けばいいのかなって」

「え?」

「だってわたし、普段文章なんて書いたこと無いし、うまく書けないから……」

 

 名雪ちゃん、ちょとブルー。

 だけど秋子さんはにっこり笑って答えます。

 

「あのね、名雪。名雪は今から書くお話で、直木賞を取ろうと思っているの?」

「わっ! そんなこと思ってるわけ無いよ!」

「だったら最初は気楽に構えていればいいのよ」

「でも……」

「いい? 名雪」

 

 ちょっぴり真剣な顔になった秋子さんにつられるように、名雪ちゃんも真剣な表情。

 あんまり似合わないのはご愛嬌です。

 

「これは月並みな台詞かもしれないけれど、初めから上手く書ける人なんていないのよ」

「うん」

「どんなに文章が上手い人だって、最初はあったんだから」

「うーん、それはわかってるんだけどね」

 

 どうやら名雪ちゃんも頭では分かっているみたいです。

 秋子さんはそれを聞いて、にっこりと笑いました。

 

「じゃあ名雪に、文章が上手くなる取っておきの方法を教えちゃおうかしら?」

「えっ! ホント!」

「ええ。知りたい?」

「うん、知りたいよ、すっごく知りたいよ!」

「そう、じゃあ教えちゃいましょう。 それはね……」

「それは……?」

 

 声を潜める秋子さん。

 名雪ちゃんにもぐぐっと力が入ります。

 

「それは、数をこなすことよ

「へ?」

 

 あ、名雪ちゃんハニワ顔。

 くすくすと悪戯っぽく笑う秋子さんをまん丸お目々で見つめます。

 

「うふふ、別にからかっているわけじゃないのよ? でもやっぱりこれが一番遠回りなようでいて、一番の近道だと思うわ」

「そ、そうなの?」

「最初はダメでも、頑張って数をこなしていけば、そのうちに自分のスタイルみたいな物も見えてくるし、何より書くことに慣れてきますからね」

「うーん、まだよく分からないよ」

「だから分かるまで書いてみるの。どんな短編だっていいの。たとえ発表しないただの落書きだって、書けば書いた分だけ名雪の力になるのだから」

「そっか…… そうだよね」

「そう。 継続は力なりよ」

「わかった、わたし頑張る!」

「ええ、頑張ってね、名雪」

「うん! でも、具体的に何を書けばいいか……」

「それこそ名雪の自由よ。初めから考えていたって始まらないわ。名雪の書きたいことを書けばいいの」

「書きたいことかぁ」

「そうねぇ、名雪なら祐一さんとのらぶらぶモノとか」

「わっ! おおおおおお母さん、なななな何を言ってるの! そ、そんなこと、ああああああるわけ……」

 

 瞬間湯沸し器のごとく、真っ赤に茹で上がる名雪ちゃん。

 口元がうにゃ〜と緩んでいるのはご愛嬌です。

 

「じゃ、じゃあわたし、さっそく書き始めるから……」

 

 そのまま、ふらふらーっと名雪ちゃんおぼつかない足取りで去っていきました。

 どうやら彼女の第一作目は決まったみたいですね。

 

「うふふふ。頑張ってね、名雪」

 

 その後姿を見送りながら、ニヤリと笑う秋子さん。

 はてさて、何を頑張るのやら……。

 

 

 

 

 次に秋子さんの元を訪れたのは祐一くんでした。

 眉間にしわを寄せて、なにやら悩んでいるようです。

 

「どうしました? 祐一さん」

「うーん、途中まで書いたんですけど、どうしても気に入らなくって」

 

 見た目によらず完璧主義の祐一くん。どうやら途中まで書いていたSSが気に入らないようです。

 

「あらあら」

「で、やっぱり最初から書き直した方がいいかなって思ったんですけど」

「そう、でもそれはあまり感心しませんね」

「え?」

 

 ちょっと意外そうな祐一くん。

 秋子さんは片手を頬に当てる、というお得意のファイティングポーズで、ちょっぴり困ったように続けます。

 

「自作のクオリティーをアップしたいっていう祐一さんの気持ちはよく分かります。それはそれで大切なことですから」

「え、じゃあどうして?」

「あのね、祐一さん。書いている途中で嫌になっちゃうって、多分SSを書く人なら誰でも1度は思うことなの」

「秋子さんもそうなんですか?」

「ええ、私もよく思いますよ」

「じゃあ……」

「でもね、祐一さんはまだ書き始めたばかりでしょう? 最初は途中でどんなにそれが気に入らなくっても、まずは書き上げることが一番大事だと思うの」

「書き上げること、か」

「そう。 書き上げてから、気に入らない部分は改めて書き直せばいいし、どうしても気に入らなければ違うお話を書けばいい」

「でも、それって結局は時間の無駄になりませんかね?」

 

 祐一くんの言うことも一理あります。確かに、結局書き直すことになるのなら、全部書いた後ではなくて途中まで書いた段階でそうする方が効率的です。

 でも秋子さんはゆっくりと首を振ると続けます。

 

「さっき名雪にも話したのだけれど、慣れていないうちはまず何よりも数をこなすこと。たとえ自分が気に入らなくても、書き上げればそこから得られるものはあると思うの」

「なるほどなぁ」

「書いている途中では気に入らなくても、いざ書き上げてみると愛着も沸くし、自分でもまんざらじゃないお話ができあがることも珍しくないわ」

「そういうものですか……」

「それに、書いている途中で投げ出してしまうと、それが癖になっちゃうことも多いのよ」

「そんな癖がつくのは嫌だなぁ」

「でしょう? 連載モノを何本も抱えた挙句、半数以上が何ヶ月も更新できないような状況ではとても実力なんてつかないわ。何より読者の方に見捨てられるでしょうね」

 

 ぐさっ

 

 何か画面外で急所にクリティカルな音が聞こえましたが、きっと気のせいです。

 祐一くんは冷や汗たらり。秋子さんは知らんぷり。

 

「チャットで『未完は物書きのろまんですなぁ』なんてほざいているような物書きには明日はないでしょうね」

 

 ぐはぁ!

 

 またもや画面外で吐血する音が聞こえましたが、気のせいです。ええ、気のせいですとも。

 

「あらあら、ごめんなさい、ちょっと話が逸れましたね」

「い、いえ、お話はよくわかりました。ちうか身に沁みました」

「あら、なぜ土下座しているのですか?」

「な、何でもございません……」

「そうですか」

 

 

 

 

 まるで逃げるように祐一くんが去った後、秋子さんの元には真琴ちゃんが。

 真琴ちゃんも何やら難しい顔をしています。

 

「あぅ〜、おかーさん」

「あら真琴、どうしたの? SSは書けた?」

「うー、いちおう……」

「あら、それはおめでとう、真琴」

「あぅ〜」

 

 ふにゃふにゃと照れる真琴ちゃん。

 

「でもそれならどうして難しい顔をしていたの?」

「あのね、書き上げたらそれを“こうかい”しなきゃいけないでしょ?」

「公開のことね」

「うん、真琴、それが恥ずかしくって……」

 

 おやおや、真琴ちゃんはどうやら自分の初めて書いたSSをホームページに公開するのが恥ずかしいみたいですね。

 普段は祐一くんに“てっけんせいさい”をくれている真琴ちゃんですが、実はとっても人見知りさんなのです。

 

「別に無理して公開する必要はないのよ。あくまで趣味で書いているのだから、公開するもしないも個人の自由ですからね。 だけど真琴は自分の初めて書いたお話を、誰かに読んで欲しいのでしょう?」

「う、うん……」

「だったら恥ずかしがっていちゃダメ

「あぅ〜、だけど……」

「真琴が恥ずかしがるのも分かるわ。他の人に読んでもらって、もしも“つまらないよ”って言われるのが怖いんでしょう?」

「あぅ〜〜」

 

 どうやら図星だったみたいですね。

 真琴ちゃん、ちょっぴり涙目です。きっとそうなった時を想像してしまったのでしょう。

 でも秋子さんはそれ見て、やさしく続けます。

 

「いいじゃないの」

「え?」

「“つまらない”って言われてもいいじゃない」

「で、でもー……」

「いい、真琴。何度も言うようだけど、最初から面白いお話なんて書けるわけがないわ」

「う、うん」

「初めて書いたSSですもの。つまらなくてもそれは当たり前なのよ」

「そ、そうなのかな?」

「そうよ、最初から面白い話が書ける人なんていないわ。初めて公開したSSが面白かったとしたら、多分その人はよっぽどの天才か、それか公開するより前にたくさん文章を書いたことがある人でしょうね」

 

 そう言って真琴ちゃんの頭をなでなで。

 ごろごろ、と喉を鳴らしそうな真琴ちゃんです。

 

「だからね、真琴。気負うことはないの、だってたとえ公開したSSがつまらなかったとしても、それは当たり前のことなんですもの」

「うん、そう考えると気が楽になってきた!」

「でしょ? それにね」

「それに?」

「“つまらなかった”って言われた方が、お母さんはある意味、嬉しいわね」

「え? どうして?」

「真琴は、一生懸命書いたお話を、“つまらなかった”って言われるのは嫌?」

「うー、すごくイヤ」

「そうね、お母さんも嫌だわ」

 

 ???

 頭の上にハテナマークが飛び交う真琴ちゃん。

 秋子さんの言うことは、どうにも矛盾している気がします。

 

「でも嫌だから、次はそう言われないように努力できるでしょう?」

「あ、そうかぁ!」

 

 どうやら真琴ちゃんは秋子さんが何を言いたいのか分かったみたいですね。

 真琴ちゃんはちょっぴり物知らずなだけで、決して頭の回転がニブイわけではないのです。

 ……多分。

 

「どこが悪かったのかな? 何がつまらなかったのかな? そんな風に自分が書いたお話を、後から見返すのはとても重要なことよ」

「そっかー」

「でもそういう所は、えてして自分では見つけることができないの」

「うんうん、それはわかる。真琴はなんども読み返して、これでいいや! って思ってるもの」

「そうね、読者の視点から推敲するのは大切な事だし絶対に必要だけど、お話を最初から全部知っている作者には100%読者の視点から自作を推敲するのは無理なのよ、どうしてもね」

「“すいこう”ってなに?」

「あらあら、これはまた次の機会にお話しましょうね。今は“自分の書いたものを公開前に読み返すこと”だと思っていれば間違いないわ」

「うん」

「だから、自作を公開して、読んで下さった方から意見してもらうことはとっても大事なことなの」

「あぅ、ホントだね」

「そうよ。自分では分からなかったことも読者の目から見ればわかるかもしれないから」

「あぅ〜、わかった。真琴、書いたSSを“こうかい”する!」

「頑張ってね、真琴」

「うん!」

 

 

 

 

 真琴ちゃんがやる気満々に去っていってから、一人残った秋子さんは突然何も無い空間に向かって話し始めました。

 

「この文章を読んで下さっている貴方に、一つだけ注意して頂きたいことがあります」

 

 秋子さん、しっかりカメラ目線です。

 

「今まで私が話してきたことは、あくまで私がそう思っているだけであり、貴方に強要するものではありません

「ですから、ひょっとすると間違っていることもあるかもしれませんし、違うご意見を持ってらっしゃる方もいらっしゃるでしょう」

 

 例のファイティングポーズを崩さずに続ける秋子さん。

 

「私が書いたことは、あくまで方法論の一つ、その人に合った服があるように、書く人によって答えは違ってくるのだと思います」

「大事なのは、自分で自分に一番合ったスタイルを見出すことだと、私は考えています」

 

 そこで言葉を切り、にっこりと微笑みます。

 

「ですから、皆さんが私の話を聞いて考えたこと。 ここは違うんじゃないか? それは僕もそう思う。 そういったご意見を是非お聞かせ下さい」

「なるべくならSS掲示板など、皆さんで意見を交わせる場が望ましいですね」

 

「これで今回はおしまいです。偉そうなことを言ったかもしれませんが、ご容赦下さいね。 それでは、ナレーターさん、締めていただけますか?」

 

 あぅ、なんか仕切られていますが……。

 

 えー、ゴホン。

 

 かくして、またしても少しおりこうさんになった水瀬家の3人。

 しかしまだまだ道は長い!

 頑張れ祐一くん!

 頑張れ名雪ちゃん!

 頑張れ真琴ちゃん!

 世界は君たちの作品を待ちわびている!!  ……と思いたい。

 

 

 

 

<つづく ……予定>