久慈光樹さんへ捧ぐ特別版 しゃむてぃるさん |
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どんどんどんどん。 元旦の朝。 とあるワンルームマンションの一室に、ドアを叩く音が響く。 「お兄ちゃん、起きてー!」 「…………くー」 「ねえ、寝ているの?」 「…………くー」 …………かちん、かちゃ。 「……起きて、お兄ちゃん!」 がばっ、と突然、暖かさが奪われる。 物理的には、掛け布団が剥ぎ取られたのだが。 「……寒い」 「だったら起きるっ」 「おまえ、どうやって入ってきたんだ?」 「あいてたよ?」 「そうか?」 「そうよ」 きっぱりと言い切る妹にあっさりと押し切られる兄。 寝ぼけとはいえ、心底で信頼している証だろう。 「どうせ寝正月なんでしょ」 「まあ、そうだが……なんだ?」 受け答えはするものの、開かない目は起きたというには不足だろう。 平日ならそれでも直ぐ起きるのだが、本日は祝日。しかも元旦。 加速が最低に鈍くとも、無理らしからぬことである。 「ふふ、こんな可愛い妹が初詣に付き合ってあげるって言っているんだから、さっさと起きるの」 「うーあー、昨日遅かったんだから、寝させてくれ……」 「駄目駄目。夜型生活なんて不健康だよ?」 「もう……折りたくないよう……」 「ねえ、聞いてる?」 「…………くー」 「……んもう、しょうがないなぁ」 再び眠りに落ちた兄に掛ける言葉は、呆れというには優し過ぎて。 剥ぎ取った布団をゆっくりと掛け、玄関に向う。 外の冷気にぶるっ、と震える。 誰も通らない通り、人の居ない空気、騒音のない静けさ。 世界は新年という言葉通り、新鮮に満ちている。 そんな世界を、二人で歩きたかったんだけどな…… そう思いながらも、兄の日頃の激務を知る妹は、休むというのを辞めさせることもできないのだった。 うん、と思いなおし、ポストを開けて見る。 「年賀状、結構きているんだね……」 それを取りだしながら、少し複雑な感情を覚えていた。 沢山の人と知り合いでいることは嬉しい。 しかしその分、自分への割り当てが減るとなると…… 「なに考えているんだろ、わたし」 ふるふるとツインテールが振れる。 ポストを閉じ、気をつけて開けたドアをやはり静かに閉める。 足音に気をつけながら兄の近くへと歩いていき、やはり熟睡している兄の寝顔を見て。 年賀状の束をベットの近くに置こうとした手が、ぴたりと止まる。 「うん、暇つぶしに見ててあげる。待たせるんだから、いいよね?」 兄の返事がある訳はない。熟睡中の上、更に小声ででは。 しかし妹はその沈黙を都合良く解釈し、ぺたりと座り込んで読み始める。 「あーなつかしいー、元気かな。 あれ、これ、女の人…かな……」 知人を見て喜び、知らない人の名を見ては誰かと思い、女性らしき字だったらまじまじと検証する。 そうこうして読み進めた時だった。 1枚の年賀状を見た瞬間、ぴたりと完全に動きが止まる。 「これ…………は……」 かと思えば、わなわな……と震え始め、すっくと立ちあがった。 「……お兄ちゃん、おきなさい」 見る人が見れば、このときの妹には立ち上る怒気のオーラを見たことだろう。 実際、ツインテールが風など無いのになびいているあたり、怒髪天を突くというのは本当なのだろう。 だが、夢の中の兄がそれを見ていることなど無い。 「うむぅ……」 「そう、とぼけるのね。いいわ」 布団を剥ぎ取っても起きない兄をまたぎ、お腹のあたりに乗る。 「ぐぇ……って、おまえ、なにやってんだ?」 「おにいぃちゃぁああんん?」 「ひいっ」 兄がこの年、初めてしっかりと見たものは、 4年も前に話題だった恐怖の大王の如き、妹の怒り様だった。 新年にして世界の終末とは…… 久しぶりにあてにしようと神を探していた兄が次いで見たものは、数限りなく迫ってくる掌の束だった。 「何よっ! 初詣って! 巫女って!」 マウントポジションからの掌底連打。 一発あたりの威力はそれほどでもないが、回転の早さと脱出不可能ぶりは脅威であろう。 「ちょ、ちょっと待て、なんだ、なんなんだ?」 「破魔矢って! 鏑矢って! 何なの、何に使うのよっ!!」 それを必死でガードしながら、その隙間から打開を狙った兄が見たものは。 「シマシマ」 「……なにそれ」 「いや、だから、初シマシマ」 兄の視線を辿る妹。 そこは兄のお腹のあたり。 というより、兄をまたいでいる、自分のまくれているミニスカートの…… 「きゃあああああっ!! 何言ってるのよーっ!!」 「わああっ! だってしょうがないじゃないかぁっ!」 一層激しさを増した掌底の回転の中で、兄は理不尽さを感じることしきりだった。 しかし、理由を知れば納得したかも知れない。 そう、何故寒空にも関わらずミニスカートをはき続けているかということと、この1枚の年賀状を見れば。 という訳で…… (こちらをクリック) |
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