このSSの密教等の設定は、かなりいいかげんです。
深く気にされても作者はよく知りませんので、どうか御勘弁を。
また平安時代の詳しい知識も無いので時代背景等おかしな所があっても大目に見てやってください。
このSSは久慈光樹さんの書かれた「異能者」の設定を一部使用した三次創作です。
基本的には「Kanon」をやっていただいてからお読み頂きますと、よりお楽しみいただけます。
苦情、その他お問い合わせは、管理人さんではなく作者までお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

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『異能者異伝〜鬼を払う者達〜』

第3章

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<1>

「久瀬様、御依頼の通り、呪殺は成功致しました」

 

 暗い部屋の中で、有力貴族の一人、久瀬はそんな報せを受けていた。

 月の明かりさえさし込まない部屋。

 深夜の丑三つ時……。

 夏だと言うのに異様な冷気が部屋にただよっている。

 そして、久瀬ともう一人、若い男だけがこの部屋にいた。

 

「クックック、そうか、御苦労だったな……」

「いえいえ、それでは、私はこれで」

「ふっふっふ、帝さえいなくなればこちらの物だ。 後は橘親王さえ傀儡にしてしまえば……」

 

 トスッ……。

 そんな小さな音が響いた瞬間、久瀬の胴体と首は離れていた。

 

「悪いが、そういう訳にもいかないんでね……悪く思わないでくれよ……」

「……」

「さすがに、首だけになっちまうと哀れだな……」

 

 そう言った男は、気配を完全に断って部屋を後にした。

 

「……」

 

 後に、物言わぬ首だけが残される。 

 その目は見開かれて、どこか恨みがましい目を虚空に向けていた。

 そして、それが閉じられる。

 

「さすがに首に恨み言を言う訳にもいかないからな……」 

 

 どこからともなく現れた男がポツリと呟く。

 

「仕事が一つ増えたか……相沢達の援護だけでも大変だってのになあ……」

 

 そして、ためいきは血の匂いの中に吸い込まれるのだった……。

 

 

 

 

 

<2>

平安京の夜は早い。

まだ、明かりも十分に無いこの時代である。

水瀬秋子は、ロウソクの明かりを頼りに書物を紐解いていた。

 

「……至急、御報告致したい事が……」

 

 どこからともなく声がする。

 

「御所の結界の事ですね?」

 

 その方向すら見ずに会話が続けられる。

 

「はい。 やはり、結界は人為的に破られたようです」

「手を下したのは、折原一族でしょうね」

「……すでにお気づきでしたか」

「予想はついていました。 彼らと我らとは、今は袂を分かつとは言え元は同じ者達」

「では、破った手段についても?」

「……こうも短時間で結界を破壊できる手段は一つしかないでしょう……」

「……まさか、折原一族にこの力に目覚める者がいるとは……」

「他にも何かあるのでしょう?」

「はい、それから、すでに呪殺を依頼した貴族は消されました」

「……帝の呪殺ね……いよいよ御所も魑魅魍魎の世界と化してきたかしら」

「現在も、折原配下のネズミが御所周辺を嗅ぎまわっているようです」

「月の一族の動きは……?」

「無いようです。 彼の連中は、最早俗世に興味を持たない様子」

 

 最早、自分の力を高める事にしか興味を持たないのだろう。

 そういう人達だ。

 だが、ありがたい話ではある。

 元々、彼らは折原一族側なのだから……。

 

「敵にならないだけ良しとしましょう。 風の一族は?」

「今のところは中立を旨とすると連絡が……」

「そうですか……あとは、折原の一族がいつ仕掛けてくるか……」

「そこまでは……ただ、ここまで強行した以上はそう遠くでは無いと……」

「少なくとも累が我らに及ばぬよう、用心する必要があります」

「はっ、それでは私めは引き続き御所を」

 

 気配が消えて行く。

 去り行く気配を感じ取りながら、彼女はふと呟いていた。

 

「あなた……どうか、あの子達だけは無事で居られますよう……見守っていてくださいね」

 

 その祈りは無駄かもしれない。

 何故なら、祈りを捧げる相手が居る場所は、全ての元凶となる者がいる場所でもあるのだから……。

 

「『永遠』など、誰も求めてはいないのに……」

 

 

 

 

 

 

<3>

 

 朝。

 それは、いつものように迎えられた。

 

「起きろ〜っ!!」

「うにゅう〜、私もう食べられないよ〜」

 

 お互いにかって知ったる間柄。

 最早、兄妹のような存在なのだろう。

 お互いを、それほど異性として認識していない二人。

 もっとも、名雪の方は自分の気持ちを押し殺しているのだが、祐一が気づくはずも無かった。

 

「仕方ない、とりあえず引きずっていこう」

 

 ず〜り、ず〜り。

 

「むにゃむにゃ……」

「これでも起きないのか」

 

 普通は目覚めると思うが……もしかしたら、これも水瀬一族の力の一端かもしれない。

 

「おはようございます」

「おはようございます」

「おはよう〜」

「うにゅ〜」

「今日は暑くて、みんなあんまり食欲が無いでしょうから水飯(すいはん)にしますよ」 

 ちなみに水飯とは水でご飯を浸した物だ。

「俺は湯漬けにしてもらえませんか?」

「あら、この暑いのに?」

「山で修行してた時は粥ばかりだったので、冷たいと食べた気がしなくて」

「じゃあ、お湯を沸かしますから、ちょっと待っててくださいね」

「真琴は熱いの嫌」

「うにゅ〜」

「……ところで名雪はこのままでいいんですか?」

「祐一さん、起こして頂けます?」

 

 ゆっさ、ゆっさ。

 揺すってみた。

 

「うにゅう〜」

 

 ゆっさ、ゆっさ。

 さらに揺すってみた。

 

「うう……祐一〜」

「おっ、目が覚めたか?」

「そんな所触っちゃダメだよ〜」

 

 おい……。

 

「祐一のばかあっ!! 名雪お姉ちゃんと何やってるのようっ!!」

「祐一さん、まだ私はお祖母ちゃんになるのは嫌なんですけど……」

「誤解だ〜っ!!」

 

 くそ〜、胡椒もジャムもこの時代には無いから使えないし。

 塩や醤(ひしお)でもぶっかけてやろうか?

 (注)醤とは醤油の原型のようなものです。

 

「秋子さん、何か名雪が1回で目を覚ますような調味料は無いですか?」

「ごちそうさまでした〜っ!!」

 

 なんだ? 真琴が逃げて行く……。

 

「それだったら……名雪の大好きな○○○○があります」

「そうですか、じゃあそれを食べさせましょう」

 

 それを近づけた瞬間。

 

「はっ、ご、御馳走さまっ!!」 

 

 あっさりと起きた名雪が逃げて行く。

 そんなにコレが嫌なのか?

 

「食ってみるか?」

 

 どんな味がするのだろうという、好奇心だった。

 好奇心猫を殺す。

 気づいたときには午の刻(正午)だった。

 

「ううっ……そういや、この間もこんなことがあったような……」

 

 

 

 

 

<4>

 

 意識が戻ってから半時ほど経った。

 御所に出てきた式神が気になっていた俺は、ちょっと現場を見に行く事にした。

 

「秋子さん、ちょっと出かけてきます」

「はい、あまり遅くならないようにね」

 

 そのまま御所へと出向く。

 道すがら考えるのはこの間の事だった。

 

 式神自体は、大した事の無い力量のやつだった。

 問題は、その大した事の無い式神が何故御所にいたのかと言う事だ。

 まるで、倒されても構わないかのように……。

 ただ、物の怪が出たとなれば御所の人間を怯えさせる事ができる。

 その間に、何か事を進める事が真の目的か? 

 そんな事を考えながら歩いて行くと、御所の前には北川が立っていた。

 

「あれ、北川。 何やってんだ?」

「それはこっちの台詞だ。 お前こそ何やってる?」

「ちょっと御所の中が見たくて……」

「おいおい、どうやって入るつもりだったんだ」

 

 北川が苦笑しつつ、中にこっそり入れてくれた。

 

「さてと、ここら辺でいいのか?」

「ああ、すまないな」

 

 おかしい……。

 結界の破壊は普通、結界を構成する鳥居や石も破壊するはず。

 なのに、それらは傷一つついてはいない。

 まるで、結界だけが消え去ったかのような……。

 

「相沢、あまり長時間いると、要らない事を問われかねない。 今日の所はこのぐらいにしておけ」

「ああ、すまんな」

「気にするな」

 

 疑問が尽きないまま、俺は帰るしか無かった。

 

「それじゃ」

「まあ、なんだから途中まで送って行こう」

「そうか、すまんな」

「まあ、大したことでも無いから……その代わり、秋子さんに、北川がぜひあなたの料理を食べたいと言っていた、と伝えてくれ」

「別に、わざわざ言うことでも無いんじゃ?」

「気にするな、必ず言っておいてくれよ」

「ああ……分かった」

 

 

 

 

 

 

 

<5>

 

「さて、そろそろ姿を現したらどうだ?」

 

 相沢が帰って少しは時間が経った。

 そろそろ奴が動き始めるだろう。

 

「……」

「黙っていても無駄だ、お前の穏行は素人には通じても、その道の人間には通じやしない」

「……」

「わざわざ人気の無い所を選んでやったんだ……出てこいよ」

「ふ……まあ、いいだろう」

 

 建物の屋根に、忍び装束の男が現れる。

 こいつだ、間違い無い。

 ここ数日、御所に潜入していた男だ。

 

「……折原の一族の物だな?」

「一応、それを言うわけにはいかないな。 俺の名は住井とだけ伝えておこう」

「久瀬を殺したのもお前だろ……」

「さてね……後から来たんだし、予想はついていたんだろ?」

「おかげさまで仕事が増えたよ」

「そいつは悪かったな」

「しかも、御丁寧に御所の結界まで消し去りやがって……まさか『永遠』を使おうとする人間がいるとは思ってもみなかったしな」

「……」

「一つ、忠告しておいてやるよ……そっちの誰が使ってるのかは知らないが、『永遠』は諸刃の剣……最後には……」

「残念だがそれを十分分かった上で使っているんだろうよ……お喋りが過ぎたか……そろそろ終わりにしようか?」

 

 言いつつ、小刀を何本も投じてきた。

 しかも全ての小刀が、俺の急所をめがけて打ちこまれている。

 さすがに食らうわけにはいかないので、剣を抜き払い弾く。

 

「まさか、これで終わりって事は無いよな?」

「もちろん、こっからが本番だよ……風よ、我が刃を運べっ!!」

 

 今度は大量の戦輪(チャクラム)……。

 しかも、一定の距離を保ってこっちの周りを回転している。

 やれやれ、どうやらこいつが襲いかかってくるらしいな……。

 思わず、ため息がこぼれる。

 

「さて……俺の『無限輪』から逃れられるかな?」

「ずいぶんとご大層な名前を付けたもんだな……なめるなよっ!!」

 

 力を解放する。

 足元の地面が音を立てて沈み、それが広がってゆく。

 

「『重力の戒め』よ、刃を封じる盾となれっ」

 

 見えない鎖がチャクラムを縛り、動きを止める。

 こうなってしまえば、チャクラムなんざ、ただ宙に浮いてる的でしかない。

 そして、今度は剣でもって、そのまま叩き落とした。  

 

「ほほう……やるもんだ……」

「今度はこっちの番かな?」

 

 剣に手を当て、能力を集中する。

 

「大地の重さを持って、我が敵を滅す。 剣よ、力ある物へ変われっ、『重力剣』」

 

 こちらの剣が鈍い輝きを放つ。

 よし、十分に力は付与できた。

 そのまま、奴がいる建物の屋根に跳躍する。

 

「おいおい、非常識な奴だな、どれぐらい高さがあると思ってるんだ?」

 

 奴が笑う。

 四階建ての塔の先端まで一気に飛びあがったのだ。

 非常識と言われればそれまでだろうが。

 

「言っておくが、体術で俺と勝負しようとは思わないほうが良いぞ」

「ふっ、地の力を使う事で自由に動けるという訳か……」

「そう言うことだ、俺を縛れる鎖はこの世に存在し得ないんだよ」

 

 そう、大地の束縛をも断ちきった俺にとって、束縛を受ける物は自分の意思以外にはありえない。

 

「なら、俺も言っておこう。 俺がお前を捕らえるのは無理だろうな」

「……」

「だが、お前を殺す事はできる」

「……なら、やってみろっ」

 

 そのまま奴に向かって剣を振るう。

 勝った……そんな確信が消え去ったのは、ほんの少しの時間だけだった。

 剣が触れたと思った瞬間、奴の姿は消え、そのまま剣が建物をえぐる。

 

「馬鹿な……幻覚?」

「残念だったな、俺の力は風……写し身ならお手の物というわけさ」

「なら、本体を叩っ切ってやる」

「そいつは遠慮する……風よ、戒めの鎖となって敵を捕らえよ……『風の牢獄』へと導けっ!!」

「なっ、くっ、うおお」 

 

 絡み合った風がこちらの動きを封じてくる。

 逃れようとしても、こちらの力がまるで効かない。 

 

「前言撤回……なんとか捕まえられるもんだな……」

「なっ……馬鹿な、そこまで力の差があるとでも言うのか?」

「そいつは違うな、経験や戦闘技術は恐らく俺が上だろうが、能力にはそれほど差は無い」

「なら、何故……」

「聞いた事ぐらいはあるだろう……相生相克と言う奴だ」

 

 相生相剋

 陰陽道、五行説にのっとって考えるならば、土は水を殺し、木に殺される。

 木は、土を破って生えてくる物。

 つまり木気は土気に勝る物なのだ。

 そして、こちらの土は当然の事ながら土気であり、風は木気の象徴する力。

 

「そろそろ、終わりにしといてやろう、風よ、我が元に集い、敵を撃つ矢と成れっ!!」  

 

 まずい、こちらはまだ要撃の体勢が整っていない。

 それどころか動きも封じられている。

 どうにかする手段は無いのか?

 そんな事を考えた時、ふと先ほど作り出した重力剣が見えた。

 

「『沈黙の弓矢』よ、我が敵を撃ちぬけっ!!」

「大地の力よ、我が元に集え……我が敵を滅ぼし、束縛を消し去り、我自身すら滅ぼす刃を……」

 

 風の刃が迫る。

 この状況から脱するにはアレを使うしかない。

 師から禁止された禁断の剣。

 

「剣よ、暗き闇となりて、我の前の全てを滅ぼせ……『漆黒の剣』!!」

 

 剣が闇を纏い、そのまま闇が広がる。

 風が作り出した戒めも、敵の風の矢も、こちらの居た建物すら闇へと呑み込み消え去って行く。

 

「はあ……はあ……なんと……か……抜け出たか……」

 

 そして、そのまま崩れ落ちる。

 最早、立っている事すらできない。

 

「大したもんだが……残念だったな」

「……くぅ、あれを……避けたと……言うのか?」

「風の力で持って跳躍して、距離を稼いだのさ……俺の力が風じゃなかったらその建物と同じ運命だったろうな」

 

 建物は完全に崩壊し、作り出した闇に飲みこまれていた。

 後で騒ぎになるかもしれないな……。

 ぼんやりとそんな事を考えた。

 

「止めをさしてやろう……『音無き刃』よ、我が敵を切り裂けっ!!」

「『深紅の黄昏』よ……燃えろっ!!」

 

 死を覚悟し、一瞬目をつぶる。

 だが、そうはならなかった。

 俺の目の前で、炎と風がぶつかり合って相殺し合って消えた。

 

「……相沢!?」

「よう、北川。 とりあえず貸し1な」

 

 そして、そこには、さっき帰ったはずの相沢がいた。

 

「さて、どうする? 俺の火は木より生じる。 お前の攻撃は通じないぞっ!!」

 

 五行の火は木気より派生する。

 つまり木気を使う相手よりも、相沢の方が有利に戦える。

 

「ふむ、まあ二人相手ではさすがに無理だな……今日の所はこれまでだ」

 

 そう言い放つと、住井は消えた。

 

「くっ……逃がしたか」

「逃げてくれてちょうど良いぐらいだろ」

「……それにしても、何故ここへ?」

「なんとなく悪い予感がしてね、戻ってきたわけだ。 それより立てるか?」

「ああ……くっ」

「大分やられたな」

「面目無い」

「ほれ、背中におぶされ、とりあえず怪我を名雪に治してもらおう」 

「これだけ怪我が重いと、かなり寝坊しそうだな」

「どうせ、能力を使わなくても起きやしないんだ。 構う事は無いだろ」

 

 やれやれ、守る方の人間が守られてるんじゃ意味が無いな。

 『懐刀』の二つ名が泣くぜ。

 そんな事を思いながら、背中で揺られていた。

 

「まさか、北川も能力者とは思ってもみなかったが……」

「ま、いろいろと訳有りでね。 すまないが、みんなには黙っててくれ」

「分かった」

「しかし、男に背負われるのは、あんまり気持ち良いもんじゃ無いな」

「それはお互い様だ」

 

 しかし、やっかいな事になったものだ。

 現時点で、水瀬一族の戦力となるのはあまりにも少ない。

 これで、折原一族が本気で攻勢をしかけてきたら……。

 

「……前途多難だな」

「そういや、あの建物の言い訳を考えとけよ、秋子さん怒るぞ」

「相沢……頼むから一緒に謝ってくれ」

「断る」

「薄情者……貴様に人の赤い血は流れていないってのか?」

「俺は、秋子さんに怒られるぐらいなら死ぬ気で戦ってた方が気楽だ」

「俺だって同じだ」

「もう、あれを食いたいとは思わん……」

「そうか、秋子さんはアレを用意してるのか……遺書を書いた方がいいかな」

 

 今は、まだ……力が足りない……。

 

 そして、相沢の背中で揺られながら、俺は意識を失っていった。

 

 

<6>

 

 

「住井君〜、いいの? お仕事さぼって……あなたのお仕事はあの人達の始末じゃないの?」

「ん? なんだ柚木さんか……別にサボってたわけじゃないよ」

 

 月が、辺りを照らし始めていた。

 これからは闇夜の住人の時間。

 

「折原に言われたのは、あいつらの実力を見ることだからな」

「ほうほう、で、どうだった?」

「今はまだ、こちらの敵じゃない」

「ふ〜ん……今はまだ……ね」

「さて、さっさと帰るとしますか」

「じゃ、私はもう少し遊んでくから」

「おいおい、夜遊びはほどほどにしておけよ」

「大丈夫、あんまり変な事はしないから」

 

 そう言うと、柚木はかき消すように姿を消した。

 

「やれやれ、本当に何考えてるんだか……ま、折原の奴も、何考えてるか分からないしな」

 

 肩をすくめて、そのまま闇夜に溶け込んで行く。

 ここから先は闇夜の住人の時間。

 

「……準備は上々、後は仕上げだ……折原……これからどう動くつもりだ?」

 

 夜明けまでは、まだ遠い。

 だが、明日の朝日が必ず昇ると誰が言えるのだろうか?

 この世に、『永遠』なんてありはしないのに……。

 

 

 

 

 

 

 

 何者かによって久世が暗殺されたことは、病死として、公式には伝えられる。

 即位の儀の一ヶ月前の事であった。

(続く)