このSSの密教等の設定は、かなりいいかげんです。
深く気にされても作者はよく知りませんので、どうか御勘弁を。
また平安時代の詳しい知識も無いので時代背景等おかしな所があっても大目に見てやってください。
このSSは久慈光樹さんの書かれた「異能者」の設定を一部使用した三次創作です。
基本的には「Kanon」「AIR」をやっていただいてからお読み頂きますと、よりお楽しみいただけます。
苦情、その他お問い合わせは、管理人さんではなく作者までお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「調べはついたんだろうな……」

 

 暗い部屋の中……灯された火が揺らめく。

 描かれた五芒星の中心に座し、目を閉じたまま闇に向けて話しかける。

 折原浩平。

 『永遠』の能力を使いこなす異能者。

 同時に、都で陰陽を司る水瀬一族と出自を等しくする者……折原一族の束ね。

 

「……調べは終わってる……だが、お前これで何をするつもりだ?」

 

 闇の中から声が響く。

 どんな強敵を相手にしようとも崩れない不遜な態度が……何故かこの時は無くなっている。

 

「答えろよ、折原……お前は俺達に何をやらせようと言うんだ?」

「住井……お前はすでに気づいているだろう? だいたい四柱の存在を確かめさせた段階で分かったはずだ……」

「……分かった……もう、何も聞かん……現在の在り方が正しいと思うわけでもないしな……」

 

 それでも、と住井は思う。

 現実にどれだけの人が死ぬか……その全てに罪があるわけではないのに……。

 

「やるのは俺だ……お前らに命令するのもな……」

「一人で何でも抱え込むな、それぐらいは産まれついた時から覚悟の上だ……あの世で嘆くより……」

「今生の世を変える……」

 

 最早、後には退けなかった……否、退くつもりはなかった。

 

「四柱はやはり能力者に封印されている……水瀬名雪、沢渡真琴、川澄舞、美坂栞……」

「一族の後継者に妖狐、剣聖に命食いか……まるでこうなることを見越したかのようだな……」

「現在、川澄舞と美坂栞は京を離れている……二柱の開放で十分な以上は除外するべきだろうな」

「となると、やはり水瀬家の強襲か……鬼門の封もどうせ解かねばならんしやることは一つだ……」

 

 そう口に出すと、折原はおもむろに立ち上がった。

 

「いよいよ……長年の宿命を断つときが来た……」

 

 後に都が大きく混乱したこの一連の歴史は、まさにこの瞬間から始まったといっても過言では無いだろう。

 時は平和で静寂な時から、動乱の時代へ移行しようとしていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『異能者異伝〜鬼を払う者達〜』

第4章

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<1>

 

「凶星?」

「はい」

「凶星というと、不吉なもんなんか?」

「わりと……」

「ちなみにどのくらい?」

「国がまるごとぐらい」

「そいつは、えらいおおごとやな〜」

 

 目の前の少女は不吉な星があるという。

 しかも、その星はこの国全土へ災いを呼びこむと言うのだ。

 目の前にいるのが美凪でなかったら笑い話で終わっていたかもしれない。

 『星を観る者』 遠野 美凪

 その二つ名のごとく、占星術にかけて他者の追随を許さず、占いが今まで外れた事など一度たりとて無かった。

 

「美凪の言うこっちゃ……ほんまにヤバイ代物やっちゅうことか……」

「ほんま、ほんま」

「ちなみに、何が原因かは分かるんか?」

「ここから西、大きな都で原因が生じると……」

「さよか……まあ、調べる事にしようかな」

 

 大きな都……。

 それだけでどこの場所かは大体予測がついた。

 ここから西にあって、大きい、そして災いの元凶が産まれるところ……。

 

「観鈴〜っ、観鈴おらんか〜っ」

「はいはい……いるよ〜」

 

 ぱたぱたと娘の観鈴が駆け込んで来る。

 肩には、カラスが従者にでもなったかのごとくとまっている。

 

「だから、カラスはやめい言うてるやろ」

「え、でも、そらはただのカラスじゃないんだよ」

「カラスはカラスや」

「が、がお」

 

 ぽかっ……。

 

「痛い」

「その口癖はやめいっ!……あかん、漫才しとる場合やない……観鈴、居候呼んで来てくれるか?」

「往人さん? うん、いいよ」

 

 

 来る時と同じく、ぱたぱたと出て行く。

 

「美凪、居候に観鈴、ついでにポテトも付けたるから探ってきてくれるか?」

「何を?」

「この国の行く末やな……うちらは戦う力をほとんど持っとらん、水瀬一族の力を借りる」

「国崎さんが行くと……みちるや霧島さんも着いて来たがると思うけど……いいんですか?」

「とりあえず、ウチと聖で十分闘えるによってな」

 

 それに、災いの原因が想像しているとおりなら、異能者が束になっても無駄だろう。

 

「あとは……」

 

 

 

 

 

 

<2>

 

 

「せいっ」

 

 ぎゅぎゃああああああああああ……。

 

「これで終わりか?」

「祐一〜っ、真琴達の方も片付いたよ」

「そっか……じゃあ、さっさと帰るぞ」

 

 

 人の形をした紙が燃えて落ちる。

 

 

「この間の式神とは力が違うな……いよいよあいつらも本気になったのか?」

「祐一、なんか言った?」

「いや、何も……おっと、もう1匹いやがったかっ!!」

 

 ザシュッ……。

 

 グギャアアアアアアアアアア……。

 

 すれちがいざま杖に仕込んだ刀で切り裂く。

 一応、坊主の端くれなのに刃を使うという罰当たりな戦い方だ。

 

「とは言っても、毎回炎を出してたんではつらいからなあ……」

 

 俺達の異能力は体力、精神力といったものを非常に消耗する。

 まあ、こんな雑魚ばかりなら問題は無いのだが……いつ奴ら本人が出てこないとも限らない……。

 だから倒せる相手は手持ちの武器で倒しておきたい……。

 

「祐一、なんで法具じゃなくて仕込杖なの?」

「名雪、そいつはお約束というものなんだ……気にしてはいけない」

「そうなの?」

「どうせ祐一の事だから、仕込杖の方が渋いとか思ってるんだよ、きっと」

「……」

「……」

「……」

「さて、帰るぞ」

「「うん」」

 

 もうすぐ夜も明ける。

 妖が活動する時間は終わり、人の生きる時間が始まる。

 

「祐一〜……ねむいお〜」

 

 お前は人じゃないのかっ!!

 

「真琴も眠い〜」

 

 お前も……ってこいつは人間じゃないか……。

 

「よくよく考えて見れば夜中戦ってたんだから眠くて当たり前か……」

 

 名雪は……器用に眠りながら歩いてるが、真琴は歩くのもつらそうだな。

 

「ほれ、おぶされ」

「う〜っ……」

「祐一……私も」

「二人同時には無理だ、お前は慣れてるからどうにかなるだろ」

「ヒドイよ祐一〜……くぅ〜……」

「もう寝てるんかい……」

 

 まったく……手間のかかるやつらだな……。

 そんな風に思いながら、二人を連れてかえる。

 背負う重みと、手に感じる暖かさ……。

 

 

 ……。

 なんだろう?

 この奇妙な懐かしさは……。

 

 

 前も、こんなふうに誰かの手をひいて歩いていたような……。

 

 いや、そんな覚えは無い。

 そうだ、そんな事は無かった。

 

 心の中から沸きあがる恐怖に、俺は浮かんだ考えを否定していた。

 俺はいったい何を恐れているんだ?

 恐れるべき事なんて……無いはずなのに……。

 

 

「祐一さん……お疲れ様」

「あっ、ただいま帰りました」

 

 気づいたら家に着いていた。

 まあ、そうたいした距離でも無かったのだが……。

 

「あらまあ……二人ともぐっすり眠っちゃって……」

「まあ、夜通しで頑張ってましたから……」

「ふふ……二人とも安心しきってますね……祐一さんと一緒だったからでしょうかね」

「そういうもんですかねえ……」

「祐一さん」

「何です?」

「二股とかはダメですからね」

「いきなり何を言うんですかっ!! とにかく二人を寝かしつけてきますっ」

「あらら……」

 

 完全に熟睡した二人を、布団の上に横たえて寝かしつける。

 まったく……焦るからそう言う事を言うのは止めて欲しいもんだ。

 二股ねえ……。

 

「祐一〜……くぅ〜すぅ〜……」

「むにゃむにゃ……祐一〜」

 

 ……ああ、もう……ええ〜い、一応俺は僧侶なんだから……別に坊さんでも妻帯してていいんだよな……だから違う……

 

「ああもう……まだまだ修行が足りないかな……」

 

 考えて見れば、俺の修行時の師匠はその手の煩悩を押さえろなんてほとんど言わなかったからなあ……。

 ううっ……この調子で寝顔を見ていたらまるで変態じゃないか……。

 さっさと俺も寝よう。

 

 

 自分の部屋へと戻り、床につく。

 心地よい睡魔が、すぐに忍び寄ってくる。

 ……今日は気持ち良く寝れそうだな……。

 

 

 ……ぐぅ〜……。

 

 

 

「二股で済むかしら……他にも祐一さん狙いの娘は多いだろうし……もっと名雪をせっついた方がいいのかしらねえ?」

「……川澄舞と連絡がとれました……」

「でも、それじゃあ真琴が泣いてしまいそうだし……娘が二人いると気苦労も多いわねえ」

「あの……聞いてます?」

「北川君、派手に暴れたみたいね……建物一つ……どうやって払ってもらおうかしらね?」

「……あと数週間で合流できるとのこと……例の任務は無事果たしたそうです」

「裏から祐一さん達を守るのがあなたの仕事なのに……祐一さんに助けられてるんですものねえ……」

「あの……怒ってますよね……」

「うふふ……どうだと思います?」

「……命だけは勘弁してください」

「ちょうど新作のお菓子につける蜜があるんです……試食していただけますね?」

 

 それは、俺にとっては命とられるのとほとんど一緒の意味です……。

 どぼどぼどぼ……。

 北川の頬に涙の滝ができた。

 

「あら、泣くほど嬉しいんですね」

 

 

 

 

 

 

 能力者は魂が呼び合うのだろうか……。

 数時間後、祐一は嫌な予感を感じて飛び起きた。

 

「北川……すまん、俺にはお前を救うことは出来そうに無い……」

 

 つつぅ……。

 祐一の頬を涙がつたった。

 友の死を感じての男泣きであった……。

 

「か……勝手に……殺すな……ぐふぅ」

 

 

 

 

<3>

 

 

 

 

 きーん……。

 薄暗い林の中に甲高い金属音が響き渡る。

 

 

「舞っ! そっちに二匹」

「はっ!!」

 

 

 ざしゅっ!!

 

 切りつけた音が一度響くと、二匹の妖は同時に消えて行く。

 目にも止まらぬ速さで、ほぼ同時に切りつけたのだ。

 これができる者は、天下広しと言えどここにいる少女しかできないかもしれない……。

 

 

「ほええ……すごいね、舞」

「そんなことない」

「そんなことあるよ〜、その剣の腕前を見たら、祐一さん舞に惚れなおしちゃうんじゃない?」

 

 ……。

 ……。

 

 

 ……ぽっ……。

 

 

 てくてくてくてく……。

 ぽかっ。

 

 

「あははは……舞ったら照れる事無いのに」

 

 

 ぽかぽかぽか……。

 

 

「良かったね舞……祐一さんに会えるんだよ……7年ぶりなんだよね」

「……」

「舞?」

「7年……」

「……」

「7年も経って……祐一は覚えていてくれるのかな……」

「大丈夫」

「本当に?」

「大丈夫だよ、だって舞みたいに可愛い女の子を忘れようったって忘れる事なんてできないでしょ?」

 

 ぽかっ

 

「あははは……照れなくてもいいのに」

「佐祐理……」

「何?」

「……ありがとう……」 

「あはは……どういたしまして」

 

 

 大丈夫だよ、舞。

 だって祐一さんの記憶で封印されているのは貴方の事じゃ無いから……。

 だからきっと彼は覚えていてくれるよ……。

 

 

「けど……祐一さんが全てを思い出したら……」

「佐祐理?」

「ううん、何でもない、早く祐一さんに会いに行こうか」

「……」

「ねえ、舞……祐一さんが他の女の子を好きだったらどうする?」

「……」

 

 ちゃきっ……。

 

「……」

「あは……あは……は……は」

 

 

 

 木の隙間から朝日が零れてくる……。

 静かで……平穏な時間……。

 だが、これが嵐の前の静けさである事を、彼女達が知る由も無かった。

 

 

 

<4>

 

 

「どういうつもりだ?」

「何がや?」

「観鈴のことだよ……俺が調査に行かされるだけなら話は分かるが、観鈴を連れて行く意味があるのか?」

 

 

 俺は目の前の晴子を睨み付ける。

 『魂の観察者』神尾 晴子

 『風』の一族を統べるもの。

 そして観鈴とは彼女の姉の子で幼い頃にひきとったという話だった。

 だが、俺は二人が本当の親子のように仲が良い事を知っていた。

 だから、自分の娘を危険な場所に連れて行けという言葉が、どうにも納得いかなかった。

 

 

「いくら観鈴があんたの本当の娘じゃ無いからっていっても……」

「本当の娘じゃなかったらなんやっ!!」

 

 

 いきなりのでかい声に、耳がつぶれたような気がした。

 不用意な発言をするべきじゃなかったかもしれない……。

 

 

「……」

「あの子はウチの子や、それだけは誰にも譲るつもりは無いっ」

「……それなら、なおさらなんで危険な場所に行かせようとするんだ?」

「……」

「理由を聞かなきゃ納得できん、確か都にはあいつの父親が居る筈だよな……そいつに会わせようとでもいうのか?」

「会わせて欲しいとは散々言ってきてるけど、そんなつもりは無い」

「向こうに引き取られて行ったら皇族だぜ? こんなぐーたら酒飲みの面倒見るより幸せなんじゃないのか?」

「あほ、変な居候の面倒みるほど優しい子に育ったんは、ウチの教育の賜物やで?」

「……」

「……」

「まあいい……理由を聞きたいんだが……」

 

 

 そう言った時、ふっと晴子の目が泳いだ。

 天を見上げ、じっと一点を見据える。 

 まるで、はるか先に何かがあるかのように……。

 

 

「ええ〜天気やなあ〜」

「ごまかすなよ」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……あんた……山の方で輪廻転生の事については十二分に知っとるはずやな?」

「あん? そりゃ学術知識としては学んだが???」

「うちの能力は『視る』事、せやけど美凪とはちごうて未来を見る事はできん」

「……」

「その代わり、その人物が過去に何をしてきたのか、生まれる前はどんな存在だったのか、魂の在りようを見る事ができる」

「おいおい、本当かよ……」

「例えばあんたの前世は鴉や」

「マジ?」

「嘘ついてどうなる」

「じゃあ、あんたはどうなんだよ」

「うちは、今と同じ位美人のうら若き保母さんやった」

「嘘こけ、死ぬときは年とってるだろうが……」

「その数年前には一人娘を失っとってなあ……」

「聞けよ」

「その娘は『翼ある者』の所に逝ってもうた」

「だから……何だってっ!」

「ウチはなあ……その娘の母親の妹で……引き取り手の無いその娘を押しつけられたような形で……」

「……」

「いつ手元から離れるかも分からん子に、情がうつるんが嫌やった……」

「……」

「けどな……その子が死ぬ直前のほんの短い時間……ウチは母親になった……」

「!」

「あの子は……観鈴は……最後に笑ってくれた……」

「まさか……観鈴って……」

「人間の縁は前世から引き継がれる……同じ所に魂が集まる……あの子は前世とまったく同じ運命を背負わされてしもうた」

「……」

「けど、同じ結果は2度と見たいとは思わん……往人、あの子を神奈の呪縛から解き放って欲しいんや」

「……それが俺の一族の目的だからな……頼まれるまでも無い」

「都で水瀬一族と折原一族が争いを起こす……美凪が災いというぐらいやから、恐らく『永遠』を使うもんがおる」

「『永遠』の真の使い手なら……神奈の元から帰還する事もできる……か……それなら観鈴を連れて戻ってくる事もできる」

「頼むで……」

「任せておいてくれ……必ずやりとげてみせるさ」

 

 

 何代にも渡り続けてきた使命。

 『翼ある者』へ辿りつき呪縛を解き放つ。

 今、俺は自分の目的を果たすための大きな手がかりを手にした。 

 まずは山へ向かおう。

 そこには俺の師匠である裏葉や、友人である祐一がいるはずだ。

 彼らの手助けを借りればきっと上手くゆくに違いない。

 

「まあ、もっとも……うちの曾婆さんは大事な事はまるで教えてくれないからなあ……あてにはしないほうが無難かも……」

 

 この時俺は、祐一が水瀬一族に合流していた事も知らなかったし、裏葉が瀕死の淵にある事も知らなかった。

 そして、長年の使命が果たせると言う高揚感から、晴子がぽつりと呟いた言葉も耳には入っていなかった……。

 

 

「往人……あんた自身の事もケリつけてくるんやで……魂が巡り会ったんはウチと観鈴だけとちゃうんやからなあ……」

(つづく)